ドラコがあのたいそうな家柄を抜きにしても少なからずモテるということは、最近になって気付いた。だからと言って焦ることはないのだが、わたしというとびきりかわいい彼女がいるにも関わらず他の女共が彼に媚びを売るのはものすごく腹が立つ。わたしはドラコが大好きだし、ドラコもわたしのことが好きだ(ただし表に出すか出さないかにおいてわたしたちは非常に大きな違いがある)。いっそのことアバダでも唱えてやろうかと思ったがこんなことでアズカバンに行きドラコと一生暮らせないのもなんだかアホくさいし、仕方がないから卒業まで我慢しよう。まあその気になればこっそりアバダできるのだけれど。


「ドラコ」


夕食の時甘い声で彼の名前を呼んだのは他でもないわたし、…だったらよかったのだけれど、残念ながらドラコに媚びを売る常連さんの一人であった。彼はわたしといたのに話しかけられたためか一瞬こちらを見る。それがなんだか癪に障って無言で目をそらしもくもくと食事したところ、常連さんは調子づいてわたしとは反対側のドラコの隣に座った。「あとね、お母様がドラコに会ってみたいとおっしゃっていたわ」「…あー、もちろん、いいよ」「本当?じゃあ今度お邪魔できるかもしれないわね」。演技だとしたら主演女優並みだ、と母国で最後に見た映画を思い出す。もしここでかわいくわたしを見て、とでも言えたらわたしも助演女優賞くらいならとれるかもしれない。(つまり、愛情表現を上手にできないのはわたしの方であった)


「…僕も、父上に話してみるよ」
「ステューピファイ」


まるで呼吸をするかのように自然に零れ出た呪文は常連さんをコロッと黙らせた。気を失い倒れる彼女をドラコが支え、それを横目で見てから食事を再開した。周りでは一部の生徒がこちらを見て囁き合っていて不快感を覚える。まあ仕方がないけれど、今日はここらへんで終わらせておくか。


「ごちそうさま、先行くね」
「おい」
「…耳にまとわりつくような声が食事中だったから、煩わしくってさ」


そう言うとそれっきりドラコは黙ってしまった。立ち去るわたしを追いかけてくる足音はスリザリン寮に着いても聞こえず、虚無感ばかりが残る。

何故もう少しかわいくできないのだろう。彼に嫉妬は伝わっただろうけれど、妬いて失神呪文かける彼女って自分でもどうかと思う。しかしそんな自分を愛してほしくて、今までも愛してくれていたはずで。
思えばわたしが一人怒った時、彼は逆ギレしながら追いかけてきた。そう、なんだかんだでわたしのところに来てくれていた。反対にドラコが怒った時、わたしは自分から謝れたことは確か少なかった気がする。今の状況も自業自得なのだと思い知らされた。


「ごめんね」
「許さない、普通あり得ないだろ」


寮に帰ってきたドラコにすぐ謝った。「あと謝罪は僕じゃなくて彼女に言うべきだ」。それだけは勘弁。


「いつもなら許してくれるのに」
「わかったんだ」
「、なにが?」
「何故僕ばっかりなのか、って」


そう言うと彼はおもむろに近くにいたパンジーを抱き寄せた。驚愕する彼女の顔には僅かな喜びが見受けられる。


「僕に愛してほしかったら」


イギリス人はなんてキザなんだろう、普通そういうこと口に出すか?残念ながらわたしは生粋の日本人なので言われ慣れていても言い慣れてはいない。パンジーの腰から離れた手がわたしの髪をぐいと掴む。痛かったけれど悲鳴を上げるほどではないと感じた、本当はきゃあとか言っておくべきなんだろうけれど。


「痛いよ」
「僕にすがって、満足させてみろよ」


ドラコの顔は寂しそうに見えた。今までわたしが彼に愛情を示さなかった分の報いである、いくらか冷たく接してきたかもしれない。だってドラコはかっこよくて、誰にでも好かれて、お金持ちで、女の子に優しくて、だからわたしが嫉妬してしまうのも無理はない。それを伝えたいけれどどうしても素直に表現できなかった。




とりあえずわたしに愛を求める彼に、一つのキスを送ろうと思う。






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懐古 様に捧ぎます

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