※同じです。





カブは腕の中に寝ている女を見て気が遠くなった。

叫び出しそうになったのをぐっと堪え恐る恐る一緒にかぶっている掛け布団をめくったが、彼女の綺麗な肩が見えたため慌ててかけ直した。それではこの胸元の感触も本物か、と絶望する。素直に喜べるわけがない。何故なら彼女は自分より一回り以上も年下で、同じ高みを目指すポケモントレーナー同士で、交際関係もなくて、何より昨夜の記憶が途中から全くないのだ。
現状を理解するため体を起こしたいところだが、自分の左腕は寝ている彼女の頭の下にあった。起こさないように引き抜ける技術をカブは持ち合わせていない。事情を確認するために起こすべきかもしれないが、まず一人で冷静になりたかった。
しかし神様は冷たい。微動だにしなかった努力も虚しく、腕の中で彼女の体が揺れ、まつ毛が震える。

「…っふ、カブさん、おはよ。」
「…何故笑っているんだ。」
「だってすごい心臓早い。」
「…まったく笑えないよ。」

頭を上げてくれたので腕を引き抜く。体を起こして昨日の夜ぶりに見た彼女は少しだけ幼い顔をしていた。

「昨日のこと覚えてますか?」
「…すまない。」
「どっち?」
「…ここがどこだか、わからない。」
「だと思った。」

天井を仰ぐカブの隣で、楽しそうに笑う。

「残念ながらここはホテルで、残念ながらカブさんと私は熱く語り合ったあと熱い夜も過ごしました。」
「……。」
「ごちそうさまでした。」

色恋沙汰に疎いカブだが、それが女性に言われる言葉ではないということだけはわかった。残念ながらとワンクッション置かれた意味だけは、自分を気遣ったのか彼女が一夜を後悔しているのか、理解できなかった。

「…きみは、」
「はい。」
「…交際している人とか、」
「いませんよ。カブさんも確か大丈夫ですよね?」

毎日毎日自分のポケモンたちと挑んでくるトレーナーとしか過ごしていないことを誰もが知っていた。小さく肯定したカブにフッと笑いTシャツを手繰り寄せると、背を向けて裸の上からそれを着る。「シャワー先に浴びますね」と歩いて行った彼女の生足にカブの心臓が飛び跳ねた。

「今日のことはなかったことにしていいので、また一緒に飲みましょうね。」

洗面所に消える直前の彼女の笑顔に、記憶がないことを惜しんでしまった。ベッド際に置かれたボールが、何か言いたげに震える。



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