※カブさん独身の前提です。かっこいいカブさんはいません。





カラリと氷が鳴る目の前の酒が何杯目となるのか、数えるのを彼女は途中でやめていた。それよりもお酒が進むたび熱くなっていく目の前の男を眺める方がよっぽど楽しいと思っていた。
騒がしくはないが静かすぎない、仕切りのあるカウンター席に二人は座っていた。親密というには少々温度差がある。一人は途切れることなく熱く語り続け時折水分補給のように水割りを飲み、一人は楽しそうにお酒を飲みながら相槌を打っていた。
この飲み会がセッティングされたのは、彼女が普段から熱血で真面目なこの男が酔ってしまったらどうなるのか気になっていたからだ。あまりのストイックさにお酒は飲まないと答えられたらどうしようかとも考えたが、誘ったらあっさり了承してくれたのでそれは杞憂に過ぎなかった。
カブさんの思いや特訓方法を知りたいと言ったからかもしれない。そう推理した彼女だったが、酔っ払いを肴にしたいという下心に罪悪感は持ち合わせていなかったし、むしろ予想通りに出来上がっていくカブに愛おしさを覚えていた。

「そこでぼくは確信したんだ、ぼくらはまだやれる、まだまだのびしろがある!と!」

そう言ってグビッと酒を煽る姿に、女も微笑んで酒を口にする。ゴクゴクと上下する喉仏に男らしさを感じた。この話、このセリフは今夜すでに5回ほど聞いたが全然飽きていない。むしろ不思議と楽しくなってくるのだから、自分も相当酔いが回っている。
目の前の男はどうだろうか。顔は赤いし目はうつろになってきたし呂律もあまり回っていない。腰につけているボールも心配そうに時々揺れる。確実に自分よりも酔っ払っているだろうな、とは思うが、そのペースは全然落ちない。むしろ元気になってきている気がする。楽しそうで何よりだが、このまま永遠に続くのだろうかと少しだけ心配になった。自分から誘ったとは言え、夜はちゃんと寝たい派だった。

「カブさん、だいじょうぶですか?水のみませんか?」
「ん…、一応おねがいしようか。」
「はい。…たのみましたよ。」
「もう?」
「今時はなんでもタッチパネルですよ。今更ですか!」
「…きみのグラスも空じゃないか。次なにのむんだ?」
「ちゃんと頼みましたよ〜。カブさんとおなじく、水割り。」

終わりが来ないことを心配していたが、終わりが来るまでは浴びるように飲む。水割りがもうただの水のように感じていた。彼女の返事を聞いたカブは、嬉しそうに顔を緩ませてもう一度酒を煽る。それを見て子供みたい、と目を細める。

「カブさんて、かわいい。」
「勘弁してくれ、ぼくももういい歳だ。」
「だってふだんずっと走ってるし、すっごいきびしく特訓してるし、ポケモンめちゃつよいし、スマートだし、気遣いできるし、だれにでもやさしいし、ちゃんとわからないことおしえてくれるし、指導するときはちゃんときびしくしてくれるし、…あれ。」
「、ん?」
「カブさんがお酒のんだらかわいいって話しようとしたのに、カブさんのかっこいいとこばっかいってました。」

あははと笑う彼女に、一瞬間を置いて口を開こうとしたカブだったが、タイミングよく注文していた水と水割りが運ばれてきた。
女ははーいと元気よく受け取り、少しうつろな目をしてから水を飲む。自分に頼んでくれたのではなかったのかとカブは思ったが、一口飲んだそれを「ごめんなさい、もらっちゃいました」と微笑んで渡す姿にぐっと頭が熱くなった。

「カブさんとのむの楽しいですね。」
「…ぼくばっかり話してたね。」
「えー!カブさんの話きくためにのんでるんですよ!それでいいんですよ!」

誤魔化すために水を飲む。少し冷静になった。しゃべりすぎたかもしれない。しかしアルコールが十分与えられたこの頭では、彼女の言葉を聞いた瞬間に確かにまぁいいかと考えていた。
「じゃあ私とストリンダーの話きいてくれますか」と枝豆をつまむ彼女に力強く頷く。真剣に聞くために酒を煽ると空になった。それを見た彼女が、楽しそうに笑って再びタッチパネルを操作する。自分はあまり得意ではない、とカブは自分よりも細くて白い指を見て思う。同じものを指差したところでまた頷くと、頭がふらりと揺れた。



次の日?

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