人は美しいものが好き。わたしももちろん美しいものが好きな“人”の内の一人だけれど、よく変わっていると言われる。そんなことない、わたしだって美しいものが好きだ。少しずれた価値観を持っているだけであって。
人は彼を強く、美しい魔法使いだと言う。それはちょっと違うと思うなあ。現に彼に近付く者はあまりいないし、美しすぎて近付けないなんてただの言い訳。それはただの恐怖。美しい薔薇にはトゲが、だなんてよく言うけれど美しいと知っているのは何故か?それはトゲを恐れず純粋に美しいものを求めたから。

人は、彼を誤解している。


「宝の持ち腐れというやつか」


純血がどうした、混血がどうした、血がどうした。そんなもの美しい美しくない関係なく本当にどうでもいいことだと思う。ただ目の前の彼はそのどうでもいいことに必死で正直見ていて痛い。彼の言葉にふふふと笑うとわたしを汚らしいものを見るかのような顔をした。失礼な、わたしだってあなたの大好きな純血であるのに。
「自分の血を誇りに思わないのか」。質問のようでもあったし、最早諦めのついた独り言のようでもあった。どちらでもよかった。わたしは自分の血のことなんて考えたこともなかったし、それを気にしなくても普通に魔法を学び使いこうして自立できたのだから。今は立派な魔女。


「かわいそうなひと」


生きるために必要なことだろうか、そんなこと。


「いつまで続けるの?」
「終わりはない」
「大変だね、自分の人生削ってでもすること?」
「わからないのなら、いい」


そう言った彼の瞳は色がなくて、ああ、本当にかわいそうだと思ってしまった。ゴドリック達とは違う純血主義のせいで孤立してしまって、わたしだったら泣いて謝って一人は嫌だと彼らに縋るだろう。助けてくれ、と。
だからきっと気のせいかもしれない。気のせいかもしれないし、ただわたしが想い人の特別になりたかっただけかもしれない。


「わからなくてもこれからわかりたい。わたしがいるよ、だからもう寂しくないね」


わたしがそう言って笑っても彼に笑顔なんてなかった。ただ、一瞬浮かべた安堵したような表情をわたしはやはり美しいと思えるのだ。気高く思われている人の脆い部分ほど美しいものはない。彼は弱く、美しい魔法使い。誰も知らなくていい、わたしに縋った彼をわたしだけが知っていればいい。


「知ったような口を」
「うん、知らない。だから教えてほしい」
「二度と外へはやらない」
「わかってる、もう後戻りはできないし、逃げる気もないよ」


「サラザール、あなたに今わたししかいないように、わたしにはあなたしかいない」

もどかしそうに感情を抑え込んだ姿も美しいよ。ほら、我慢しないでわたしを抱きしめたらいいのに。









****

狡猾 様に捧ぎます

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -