ラクサスに傷つけられたあれは、やはりしばらくは消えないと言われた。それでも構わない、痛くてもこれは彼なりの愛の証なのだから。けれどこの傷を見るみんなの瞳には憐れみが含まれている。
「なんでかな」
「当たり前よ」
わたしの疑問に答えてくれたのはミラジェーンだった。「痛々しいもの、その傷」、さすがに彼女も苦笑いだった。
「ところで、あなたも出るの?ミスフェアリーテイル」
「まっさか!人前に出られるほどいい顔してないし」
ミラジェーンの質問にないない、と首を振った。一方彼女はしょんぼりした様子で残念だわ、と呟く。言わせてもらうけど、誰があんな恥さらしのようなコンテストに出るとお思いですか。フェアリーテイルにはミラジェーンやエルザ、カナやレヴィのような美人ばかりである。それに加え今年はルーシィとジュビア、勝てる気などしない。「待ち合わせがあるから」、そう言って席を立てばミラジェーンが微笑んだ。
「ラクサスのところでしょ?」
「なんでわかったの?」
「羨ましいくらいに幸せそうな顔だからよ」
彼女の言葉に、とうとう頬の緩みを抑えられなくなった。
待ち合わせの場所に行くと、彼は既に来ていて岩場に座っていた。待たせてしまい怒ったかな、と思うものの隣に座ってもうんともすんとも言わない彼に、怒っていないのだと安堵する。「ラクサス」、声をかければちらりとこちらを向き、すぐに遠くを見た。それに倣いわたしも遠くに視線をやる。
「雷神衆が戻って来た」
「本当?」
フリードやエバーグリーン、ビックスローが帰って来たという。この前はたまたまフリードだけが一時的にいたらしいが、今度こそ本当にみんな帰って来たようだ。うれしいな、特にエバーグリーンとはお泊まり会をしたい。前に一度やったらすごく楽しくて、やはり女子は会話が絶えないと思う。彼らもわたしのことを認めてくれている、はず。早くエバと連絡を取りたい、と考えたところである一つのことを思い出す。ハッと息を飲みラクサスに視線を向けるが、彼の横顔は強い意志を持ったままだった。
「…言ってたよね、前」
「…ああ」
「ねえラクサス、本当に、」
「お前ごときに何と言われようが俺はやる」
お前“ごとき”。所詮はそのレベルなのか、と項垂れる。わたしなんかよりも雷神衆の方が信頼あるしね、そりゃそうだ。ラクサスがこれからやろうとしていることにだってわたしとは違い賛同している。彼との間に現れた壁に戸惑いを隠せなかった。俯くわたしの顔にラクサスの手が触れ、自然と顔が上がる。彼の顔にはいつもの自信満々な表情があった。
「お前も来い」
え、と言葉を発する前に塞がれる唇。
その瞬間、わたしの中の迷いはすべて消え去った。