みんながいるであろう部屋に来ると明らかに不自然な雰囲気がそこにはあった。「よ、よう、ナマエ」「俺、前からお前と仲良くしたいって思ってたんだぜ」。嘘つけ、と咄嗟に言いたくなるようなグレイの棒読み具合に少し悲しくなった。

「ヘタクソ!!」

突然叫び立ち上がったエルザにびくりとその場にいたみんなが震えた。ヘタクソ、って、は?

「せっかくナマエに気を遣わせないようにお前らに仲良くなれと言ったのに、グレイ、何故そんな棒読みなんだ!ナツはナマエがラクサスのことを好きだということを意識し過ぎだ、聞いていないフリをしろと言っただろう!」

そういうことね。でも言ったら意味がないと思うんだけどなあ、エルザ。言ってしまってから気付いたらしく、はっと申し訳なさそうな顔をこちらに向けた。ある意味才能だと思うよ。

「すまない」
「や、別にいいよ。てかこっちこそ気遣わせてごめんね」

ナツとグレイに視線を向けるときまずそうにそらされる。瞬間エルザに殴られて、それを見たルーシィと声をそろえて小さく悲鳴を上げた。「ってーな!エルザ!」、心なしかナツは涙目であった。

「ごめんねナツ、わたしのせいで」
「え、いや、別に」
「わたしナツとグレイとも仲良くなりたいんだけど、今日泊まっていい?」

ルーシィがもちろん、と笑顔で頷いた。あ、着替え持って来なくちゃなあ。





それから数時間経ちみんなが寝静まった中、起き上がり様子を確かめる。寝る直前にはみんなとも仲良くなれてとてもうれしかった。グレイの脱ぎ癖には少しムラムラした、めっちゃいい体なんだもの。誰も起きる様子もなかったので立ち上がって玄関に向かう。扉のところで服を脱いだ時だった。

「おい」

みんなの方には背中を向けている、けれど声でわかった。

「グレイ?」
「どこ行く、…っあー、わり」

暗闇の中であるから見えないかと思ったが、さすがに近くまで来れば服を着ていないのが見えたらしい。こちらも恥ずかしくなり慌てて服を着て玄関を出ようとした、が、グレイに手を掴まれる。

「どこ行くんだよ」
「…寝れなくて、家帰る」
「ウロチョロしてっと襲われるかもしれないんだぞ?」
「大丈夫だよ、死なないから」

ミストガンに教えてもらった眠りの魔法をかければあっという間に眠ってしまう。残念ながら力はないし、いちいち魔法を使うのも面倒なのでそこで寝てしまったグレイを放置しルーシィの家を後にした。





ルーシィの家を出てしばらくしてから、わたしのあとをつけてくる気配。明らかに殺意が丸見えであったために目的地を家から人気のないところに変える。頃合いを見て振り向くと、そこには幽鬼の支配者のガジルがいた。見たことがある、相変わらずごっついピアス。ギヒッと笑い早速手を出してきたので攻撃を避けた。

「ガジルくん」
「お。俺の名前知ってんのか?」
「滅竜魔法使うんでしょ?もしかして、ギルド襲ったのって幽鬼の支配者?」
「ギヒッ!知らなかったのか!」
「生憎夜中に襲ってくる小心者には興味なくって」

わたしの皮肉にすら愉快そうに笑うだけだった。ふと気付く、彼の体にはいくらかの血が付いていた。ガジルが怪我した様子もないし、となるとこれは他の誰かの血となる。「誰の血だか教えてやるよ」。朝日が昇り、明るくなっていた空に光りが差す。気持ち悪いほどに楽しそうな彼は、更に楽しそうに言った。「お前の、ナカマの血」。





ガジルをうまく撒いてギルドに向かう。マスターのところに向かえば周りは驚いた反応をした、ガジルにやられてしまった腕の傷だろう。結果逃げた形になってしまったことすら屈辱なのに、なんという不覚。

「マスター、誰がやられたの?」
「…シャドウ・ギアじゃ。お前さんも早くその腕を治せ」
「…わかった」

わたしのこの腕など比ではないんだ、レヴィたちに比べたら。あの時ガジルやっつけておけばよかったなあ。
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