「お疲れ」
「…何してんだお前」
「散歩」

ねー、と腕の中の赤ちゃんに話しかければスルーで、そんなことよりもばったり出会ったラクサスに興味津々であった。「この怖いおじちゃん、ラクサス、っていうの」「ふざけんなよテメー」。地の底から聞こえるような恐ろしく低い声にびっくりして、赤ちゃんはわたしの服をぎゅっと掴む。

「かわいいでしょ、わたしに似て」
「お前のガキか」
「うん、ってちょっと行かないでよ冗談だってば」

立ち去ろうとしたラクサスに制止をかける。振り向いた彼は「本気にしてねーよ」と言って再び去ってしまった。誤解しないのも当たり前か、ずっと一緒にいたから腹膨らんでるのなんて見たことないだろう。

久しぶりにやった“普通の”仕事、それは子守りだ。わたしもラクサスと同じS級魔導士なのである。





子守りをした家が大変お金持ちだったために報酬はたくさんもらった。わたしにかかれば家の人の目を盗んで連れ出すことなど簡単、本来怒られるであろう街での散歩はバレないのである。こんな平和で何も苦労しないのにがっぽりもらえるなら“普通の”仕事もなかなかいい。

「おい」
「え、なに」
「あのクソみてーな仕事は終わったのか」
「クソじゃないし」
「行くぞ」

でもまあやっぱり、ラクサスに無理やり連れて行かれるS級クエストが一番だなあ。大きな背中を見て、自分のラクサスに対する恋愛感情を再認識した。
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