大広間に呼び出しがかかり、最近はもう慣れてしまった行進スタイルで今日もみんなが整列して向かう。スネイプ校長先生がみんなの前に立つと、ねっとりまったりした這うような声でハリーがホグワーツにいることを告げた。もう来ていること把握したんだな。
すると突然ハリーが大広間に現れた。いや、もういたのかもしれない。ハリーどころかハリーの仲間たちと思われる集団も現れ、スネイプが杖を向けた瞬間マクゴナガル先生がスネイプたちを攻撃した。その勇ましさに思わず口笛を吹く。とくにやり返しもせずスネイプが逃げた姿を見て違和感を覚えつつも、彼のことで理解できた試しはないのですぐに思考を放棄した。

『ポッターを差し出せ』

マイペースにしていたところ突然頭に聞こえて来た声に、ドッと心臓が速くなる。恐ろしさを感じあたりを見回すが、わたしと同じ声が聞こえているらしく、みんな悲鳴をあげて混乱している様子だった。これが、ヴォルデモート。確かに声を聞いただけで命がなくなりそうな、そんな恐怖を感じてしまう。
すぐに声は聞こえなくなりホッとしたが、ハリーを差し出せばホグワーツやわたしたちに手を出さないという言葉は嘘だろう。散々痛めつけておいてそんなわけがない。しかし我がスリザリンは自分の身が一番かわいいので、目の前にいるハリーを差し出さないわけがなかった。キーキー騒ぐ姿にいっそ清々しさを感じた。今更驚きも呆れもしない。
見かねたマクゴナガル先生がわたしたちスリザリン生を地下牢に連れて行くよう命じた。もちろんわたしも例外ではない。仕方がないかとため息をついて大広間を後にしようとしたが、案外スリザリンのみんなも素直に従ってそそくさと大広間から立ち去っていた。そっちの方が安全だと思ったのだろうか。確かに戦闘の最前線に立つよりかはマシかもしれない。
地下牢へ向かうスリザリン生や学校を守ろうと動く人たちで大広間や廊下がごった返す。いつまで閉じ込められるんだろう、隙を見て抜け出した方が良さそうだ。ザワザワと騒がしい中、キラリと光るプラチナブロンドが視界に入る。

「ドッ…!」

すぐに振り返ってその姿を探すが、既にいなくなってしまった。しかし、スネイプの言う通り現れた。ドラコが、たくさん人がいるにも関わらず、ホグワーツに来ている…!
前にもこうしてドラコを追いかけたことがあったな、と思い出しながら、スリザリンの集団から一人離れた。それどころじゃないので誰もわたしがはぐれたことを気にしていない。ドラコが見つからないほどだもの。
ふとマクゴナガル先生と目が合いドキッとしたが、先生は私を見てすぐに視線を逸らした。

「(…見逃してくれた)」

彼女が何を考え感じたのかはわからないが、わたしも意識をドラコに戻す。杖があることをしっかり確認して大広間を出た。










「ハーマイオニー!」

ロンとハーマイオニーの姿を見つけ声をかけると、二人は何かの紙を持ってどこかへ走っていくところだった。

「ナマエ?!何故ここに…!」

声をかけると二人ともびっくりしていて、「ちょっとロン…!」「君だってちゃんと見ていなかっただろ…!」と小さく言い合いをしている。わたしが来たことが余程予想外かつ都合が悪いのだろう。ビンゴだと思った。

「決して邪魔はしないわ」

一言それだけ伝えると、二人は黙りこくってしまった。どう対応するか決めかねている。少し時間を置いてから、ハーマイオニーはたっぷりため息をついてまた歩き始めた。

「行きましょう」
「おい、ハーマイオニー!マジかよ!」
「ここで揉めている方が時間の無駄よ。ネビルからグリフィンドールを助けた話も聞いているわ」
「ありがとう、助かる」

カロー兄から庇った時の話だろうか。人には恩を売っておくものだなと思った。忘れた頃に見返りが来る。
迷いもせず走り続け二人が到着したのは必要の部屋だった。噂ばかり聞いていただけで、実際に入るのは初めてとなる。まあ必要としなかったからなんだけれども。「ここからは別よ」とハーマイオニーが念を押して来たことに、ここで重要なことが起こることとドラコがいるかもしれない可能性を感じた。
二人が部屋に入ってから、わたしも続けて中に入った。既に二人の姿はないものの遠くから呪文や魔法を使う音が聞こえ、わたしも別方向から向かおうと必要の部屋を早歩きで進んでいった。
ガラクタの山ばかりだ。必要の部屋って、こんなに広いものなのか。いや、必要な人に必要な形で現れるから、これは誰かが求めた形なのだろう。途中不自然に置かれた綺麗な箒を見つけて、手に取るか少し迷う。
すると突然、遠くで悲鳴が聞こえ、炎が上がった。その炎はみるみるうちに広がっていき、こちらにも近付いて来る。すぐに只事ではないと気付き目の前にあった箒で部屋の奥へと向かった。

「ナマエ!!」
「ナマエ?!」
「よかった!!一体これは何?!」
「っナマエ!来てくれ!!」

上から見てわかったが、部屋中すでに炎に包まれている。部屋にいると知っていたロン、ハーマイオニーと部屋の中にいたらしいハリーも無事でいることにホッとしたが、ハリーはわたしを見て驚きつつもすぐに部屋の奥へと引き返した。
まさか、とゾッとしその背中を箒で追いかける。

「ドラコ!!!!」

そのまさかだった。炎に包まれた今にも崩れ落ちそうなガラクタの山で、どうにかしがみついているのはドラコと、あれはブレーズか。
ハリーがドラコに手を伸ばし、ドラコもハリーに手を伸ばす。それを見てブレーズに視線を向けると、彼もそれに気付き手を伸ばしてくれた。
…いや、わたしの腕力じゃ無理でしょ。
杖を抜いて一振りし、ブレーズを空中に浮かせる。えっと彼が目を丸くしたのが見えた。そのまま両腕を使ってその体を捕まえ、箒の後ろに乗せる。

「無言呪文の習得、間に合ってよかった」
「………マジで落とされるかと思った」
「そんなひどい人間に見える?」
「ナマエ、俺はもうお前しか愛せないよ」
「わたしはドラコしか愛してない」

ハリーも無事ドラコを箒に乗せ、ハーマイオニーが一振りで炎を弱めてわたしたちの通る道を作ってくれる。みんないつの間に呪文を唱えなくても使えるようになったんだろう。わたしけっこうセンスあったんだけどなー。スネイプに教えてもらった分そこにうまく力がいかなかったのかな。まあ今はなんとかみんなに追いついたからいいか。スネイプに教えてもらった分も唱えなくても使えるようになったし。
炎から逃れるように全速力で必要の部屋を出て、ズザーッと足を滑らせてブレーキをかける。顔を上げてドラコを見ると、部屋から飛び出した拍子にハリーと地面に転がってしまったがすぐに立ち上がった。どうやらみんな無事のようだ。

「ドラコ!」

箒をブレーズに押しつけて走り去ろうとするドラコを捕まえると、目を見開き体がガタガタと震えている。命が助かったというにはあまりにも余裕がなさすぎるその姿に、わたしも驚き固まってしまった。

「…ナマエ」
「…行って、ドラコ」

向こう側で、ハリーたちが何かを壊しているのが見えた。途端に恐ろしい呻き声が聞こえ、大きな音を立てて必要の部屋の扉が閉じられる。
ドラコはごめん、と一言だけ呟くと、どこかへ走り去って行った。それを見てブレーズもわたしを気にしつつドラコを追いかけて行く。

「怪我はないわね、ナマエ」
「…ハーマイオニー」
「あなたも戻って。安全なところにいるのよ」

そう言って三人もどこかへ立ち去った。みんながいなくなり、ポツンと一人、何もないところで立ち尽くす。
ドラコが顔面蒼白で思わず見送ってしまったけれど、追いかけた方がよかっただろうか。しかし彼に寄り添ったところでできることなんてたかが知れている。昔ドラコがバックビークによって怪我をした時、わたしは何をしていた?決してパーキンソンのようにただ寄り添って一緒に泣いていたわけではないはずだ。
ドラコは恐らくハリーの邪魔をしたかったはずなのに、それがうまくいかなかったことで自分の命が脅かされることを恐れているのだろう。だから助かったはずなのにまだ震えていた。これじゃあ例えうまくいっていたとしても、これからもドラコは追い詰められるのかもしれない。優しくて意気地のない弱虫なドラコには闇の世界は生きづら過ぎる。
ハリーたち三人を追いかけることにした。負けるかもしれないし、ドラコだって喜ぶとは限らない。生き残ったとしても孤立するかもしれない。それでもいい加減、彼が馬鹿みたいに偉そうに笑ってる姿をまた見たいと思うのだ。


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