庭の植物たちに水を与えながら、空を見上げていた。青い。真っ青だ。気持ちがいい。何もかも忘れることができる。…と、いいのだけれど。

わたしの初恋が儚く散ってから、早いものでもう少しで二ヶ月が経とうとしていた。わたしがドラコにフラれても生活に何か支障が出るわけではなく、実に平和な日々を過ごしていた。巷では、名前を言ってはいけないあの人の話題で持ち切りだけど。

「残り少ない夏休みを有意義に過ごしているようだなミスミョウジ」

突然の爽やかな天候に似つかわしくない地を這うような声。そんなの一人しか知らない。

「す、スネイプ先生…」
「まさかとは思うが自分で頼んでおきながら我輩の出した課題を怠っているなんてことはないだろうな」
「も、もちろんですよ!これは母に頼まれて!お母さーん!水やり終わったから!スネイプ先生来たから!」

遠くから返事が聞こえる。ああ、スネイプが無断で家に上がったことはないから彼が来たことは知っているのか。
スネイプは夏休みになっても一週間に二回くらいのペースで来てくれていた。よほどわたしに期待してくれているのか、授業をするのが楽しいのか、暇なのか。

「さて、先日我輩が教えた呪文の具合を教えてもらおう」
「はい。…ラングロック!」

スネイプに向かって呪文を唱える。初めはスネイプと言えども先生だから呪文をかけづらかったが、今では慣れたものだ。
呪文を唱えるとスネイプは口をパクパクするだけで言葉を発することはなかった。成功だ。「フィニート」「…よかろう。合格だ」。

「先生、わたしが練習している時、父と母はこの呪文を知らないと言っていました。しかしわたしは現にこうやってこの呪文を使えます。これは、なんなんですか」
「必要のないことを聞くなミスミョウジ。貴様は我輩が教えた呪文を黙って習得していればよい」

わたしが両親に呪文の練習相手としてお願いした時、唱えられた呪文に不思議そうな顔をされた。その上初めて使った時はまだ未熟で呪文の効力が反映されなかったため、呪文を聞き間違えたのではないかと言われたのだ。その内ラングロック、舌縛りの呪文が効いて来ると彼らは本当に驚いた顔をしていた。

「ある程度の呪文は教えてやった、続きは新学期だ」
「ありがとうございます先生」
「…このような結界はそうそう作れるものではない。父親に感謝するんだな」

結界とは、父が家に張ってくれた対魔法省の結界だ。17歳未満の魔法の使用は禁じられているため、夏休みも呪文の練習がしたいと呟いたところ魔法省に使用がバレない結界を作ったのだ。規格外である。父は何者なのだろう。
そういえば、うちの両親とスネイプは同じ寮だったから知り合いらしい。うちの両親の方が年下だ。そのためスネイプは両親にもしっかり嫌味を言うのだが、彼らはそれをうまくスルーして会話する。世渡り上手な両親に似なかったのは何故だろう。

「貴様はドラコと仲が良かったな」
「いいえ、そんなことないですよ」

スネイプが意外そうにこちらを見る。負けじと目をそらさずにいたら、フンと鼻を鳴らして背を向けた。

「そうか。ならばよい。貴様はいつも通り指をくわえて物事が過ぎ去るのを待っていろ」
「…は、どういう意味ですか」

返答はなく、スネイプは家を出て行く。敷地から出るというところで母が慌ててスネイプに何かを持たせていた。一度は断られたものの、無理やり押し付けている。きっとカボチャパイだろう、いい香りがする。スネイプは甘いもの食べれるのかな。甘さ控えめに作ってあるのかな。

「…どういう意味だ」

わたしにはさっぱりわからない。自分に関係ないことだと思っていることは、案外自分にとって大切なことだったのかもしれない。

もうすぐ夏休みが終わる。新学期が始まれば、何かわかるかもしれない。
わたしの知らないところで何かが起こっているんだ。それがきっと、ドラコを苦しめているのだと思う。


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