ハリーにレッスンを受ける約束をしたのだけれど、リスクや正確さを考えるとスネイプの方がわたしに合っているのかもしれない。そう気付いたのはホグズミート村から帰って来た後のことだった。スネイプのあのねちねちとした性格を考えると多少やりにくいがへこへこ言う通りに動いておけば、あの人は意外と単純だから扱いも楽だろう。それにハリーだって、DAの方で忙しいかもしれない。
「よし」
「どこへ行く」
振り返るとドラコがいた。またか、まるで彼はわたしのストーカーのようである。正直アンブリッジ側の彼とは話をしたくないので別に、と軽く流そうとするとドラコはギリリと唇をかみしめた。その顔は今にも殴りかかって来そうな、泣き出しそうなそれであった。
「どうしたの、顔すごいことになってるけど」
「誰のせいだ!」
「まあわたしだろうね」
参ったな、いつも通りの反応だけれど大変ご立腹のようだ。
「君、最近ホグズミートに、誰と行った?」
震えている声を聞いて、ドラコが泣きそうだとわかった。
「…ごめんなさい」
「謝って済むと思ってるのか、君は誇り高きスリザリンの生徒だぞ。それなのにあの下等なグリフィンドールと、バタービール、なんて飲みながら、談笑して」
「寮は関係ないんじゃない?」
「ああそうだ!君はスリザリンである以前に僕の恋人のはずだ!」
その言葉でわたしが如何に軽率な行為をしたかやっと理解した。最早睨みに近い眼差しに向かい合うほど強くはなくてどうしても下を向いてしまう。「こっちを見ろ」。英国において目をそらすことは許されないらしい、と少しだけ母国の風習との違いを感じながら恐る恐るドラコを見つめ返した。彼の瞳の中には、怒りと、悲しみが見えた。
「君は僕が嫌いか?」
「…それは、ない」
「何が不満なんだ。ポッターと僕では、どう違うと言うんだ」
別にハリーとあなたを比べたわけではない。わたしはただ、生温いあのクソババアの授業が嫌いなだけ。そしてたまたまあなたがそちら側につくから、あまり好ましくないだけ。好きな人が嫌いな人と一緒にいるってすごく不愉快なんだよ。けれどこれは言うまでもないだろう、現にわたしはドラコにそう思わせてしまっているのだから。
真実を今言えばうっかりDAのことを漏らしてしまうかもしれない。それはなんとしてでも避けたいことである。けれど嘘はつきたくない、と思ってしまうのは決して我儘ではないだろう。
「…わたし、アンブリッジの授業が嫌いなのよ」
「…そうだろうとは思ったけど」
「だから、そんなアンブリッジと一緒にいるドラコがムカつくし、アンブリッジの愚痴をハーマイオニーに喋ってただけよ」
ひくりとドラコの頬が動いたのを見逃さなかった。
「……僕は友人に、君がポッターに抱き着いたと聞いたけれど」
死んでしまいたいとさえ思ってしまった、いや、あの時の自分をどうにかしたい。何故あんなそれこそ軽率な行動を取ってしまったのだろう。あの、ドラコ。弁解しようとする前に彼が口を開いた。
「しばらく僕に近付かないでくれ」
いつもお前から勝手に来てるだろ、と思っても口に出せるわけがなかった。それは初めての完全な“拒否”だった。立ち去るドラコの後ろ姿を見送る。ああ、この間にパーキンソンにとられちゃったりして。
しばらくして、本来の目的はなんだったかなとわたしも歩き始めた。