ホグワーツに入学してあれから四年、わたしは五年生になった。ガタガタと揺れる列車の向かいに座るリズは珍しくぼーっとしていて、そろそろ学校に着くという時にたまらず話しかける。「どうしたの、元気ないね」。ちらりとわたしを目を合わせてから、再び窓の外に向けられる視線。不意に彼女の口が開いた。「あいつと喧嘩してるの」。

「あいつって彼氏さん?」
「あいつ、すぐ妬くからムカつくのよ。たまにあんたにも嫉妬するの、ひどい時はあたしがいくら好きって言ったって怒ったまんま!腹立つから顔殴ってそれっきりよ」
「バイオレンス」
「それよりマルフォイとどうなのよ」

自惚れではないと信じるならば、彼女が心を開いているのはわたしか彼氏さんくらいだと思う。だから誰にも言えなかったのだろう、少し愚痴を零したくらいでいくらかはストレス発散になったようだった。
マルフォイ、ドラコとわたし?特に何もない、昨年度のクリスマスパーティでキスしたくらいだろう。「あたし知らないわ、それ!いつの間に?」、リズが純粋に関心を持った顔をした。まさかそんな反応されるとは思わず、どうせやっとかとでも言われるだろうからと言わないでおいたのに。「それ以来してたわけ?」、まあ、ドラコがたまにして来たことは否めない。

「なんだかんだ言ってやることはやったのね」
「キスしたいとはわたし思わない」
「拒んでないじゃない、言い訳にしかならないわ」
「別にそういうわけじゃあ…」
「その調子じゃ付き合ったわけでもなさそうね、マルフォイに同情しちゃうわ」

ふう、とどこか楽しげに美しくため息をつく。目が笑ってるのはわたしたちを憐れんでいるのだろう。

「仕方がないわね」

不意にリズが立ち上がる。ちらりと扉を見てから笑い、彼氏さんのところへ行ってもう一発殴って来ると言ってコンパートメントを出て行ってしまった。笑いたくなるほど楽しみなのかと一瞬驚いたが、入れ違いに入って来る男にああなるほどといろいろ納得した。

「ドラコ、随分楽しそうだね」

事実、わたしたちのコンパートメントに入って来たドラコはすごく機嫌が良さげだった。わたしの言葉にもただ笑うだけで、彼は先程までリズが座っていた向かい席に座る。にやけ顔が止まらない薬でも飲んでしまったのかと考えたが、彼の胸に光るバッジにすべてを理解した。はいはい、そういうわけね。

「監督生になったんだね、おめでとう」
「ま、僕なら当たり前だけどね」

高い鼻を長くしてふんぞり返るドラコの姿がこのコンパートメントにはどうもミスマッチだった。ものすごーく癪だが彼は気品に溢れているしやはり金持ちなだけあってマナーとかもいい。この謎の偉そうな性格も環境故に、だろう。そう思うと少しかわいそうな部分もある。
「ますます僕に惚れただろう」。わかっていたが、こいつとんだ勘違い野郎だと心の中で叫びながらわたしの隣に移動したドラコが正直ウザかった。よく自分にそんな自信が持てるね、わたしには絶対に無理。しいて言うならば闇の魔術に対する防衛術とマグル学だけは超得意。

「ますますも何も、わたし、ドラコに惚れてない」
「まさか。照れるにもほどがあるぞ」
「ごめんなさい、嫌いではないけど惚れてるかと聞かれると少し難しい」

その時のドラコの顔といったら、言っては失礼だけれど実に滑稽だった。

「…本気で言ってるのか」
「わたし、好きがよくわからない」
「…僕に会いたいと思うか」
「あまり」
「僕を、目で追いかけるか」
「まあ視界には入るわ」
「僕とのキス、嫌か」
「したいとは思わない」

もしかしなくても、彼はわたしに会いたいと常日頃思い見つければ目で追いかけキスしたいとも思うのだろう。なんだか申し訳なく感じて、ごめんなさい、と小さく謝罪するといきなり肩を掴まれ思い切り抱きしめられた。もちろんそんな免疫あるわけでもなくつくわけでもなく、不甲斐ないほどに心臓が苦しい。そんなときめく展開ではあったが、空気も読めず隣にいるドラコに抱かれたせいで腰が痛くなって来たので、仕方なく体全体を素直に彼に向けた。

「…僕はこんなにも好きなのに」
「うん、だからって泣くなよ、男でしょ」
「っな、いてなんか!」
「声が震えてる」

しばらく息を止めた後に、うう、とドラコが声を漏らした。泣き虫は本当直らないドラコ坊ちゃま、相変わらずだと背中をさすった。キスしてあげるしこうやって抱きしめてあげるからわたしが悪いとはわかっている、けれど拒めないし、嫌だとは思わない。所謂キープというやつになってしまうのだろうか。わたしは、ドラコに好かれて天狗になってる?まさか、と笑いそうになるが実際そうだと思うところもあった。結局、悪いのははっきりしないわたし。

「ドラコ」
「…う、」
「ごめん、わたしきっと好きなんだよ、ドラコのこと」
「…本当か?」
「う、んー、た、ぶん」
「…何故君みたいな腹が立つ女が存在するんだろう」

離れたドラコの顔は不服そうで、わたしに対してか自分に対してか、怒りが込み上げている。相変わらずにガタガタと揺れる列車、どうやらもう少しで着くと思っていたがまだだったらしい。無意識にぎゅうとドラコの服を握ると、少し彼の瞳が揺れた。わたしに腹が立つ、それは何故?わたしの行動一つ一つに一喜一憂するから?揺れた彼の瞳は微かに恐怖が見えて、それが無性に愛しく感じる。
わたしはドラコと違って感情をうまく表に出せない性格だから、きっと今更彼に熱くなることが恥ずかしかったのだ。だって初めて男の人を愛しいと思ったし、いつもと違う特別を味わったし、すべてが初めてだった。

「ドラコ」

多分、やっぱり好きなのかもしれない。ドラコに初めて自分からキスをした。


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -