「グリセオ」

防水呪文をかけているおかげで水をかぶっても特に問題はない、が、階段で突然段差が消えただの坂になってしまったことには驚いた。笑い声が聞こえた方を見るとブレーズの元パートナーの女の人。…くっそ、先輩だったのか。グリセオ、滑れという呪文はわたしたちまだ習ってない。とりあえず下まで滑り落ち、仕返ししたいのを我慢して元来た道を通った。

「ナマエ、キスしてやろうか」

突然現れたブレーズに顎を掴まれる。そういう免疫がないのでドキドキしながらも精一杯冷静を装い返事をした。「なんでよ」「さっさとこういうコトして、裏で焦らされるよりかは呼び出し喰らっちまった方が楽だろ?」「まあ、そうかも」。よくもまあそんな普通では思いつかないことを、と呆れ半分尊敬半分。でもだめだ、と彼の手をやんわりどける。残念ながらわたしの唇は安くないし、そんな簡単にキスもできない。

「だったらマルフォイにしてもらえば?」
「は?」

周りを見渡せばこちらを睨む先輩方の他に、無表情なドラコがいた。じゃあなと立ち去るブレーズに手を振り返し、ドラコと目を合わせる。ところが彼はさっさとどこかへ行ってしまった。ええ、そんな、ここでわたし一人?あの先輩方に思い切り狙われちゃうじゃん。


なんとかその場を逃げ切った。しかし失敗、もう少し人気のあるところに行けば手も出されずに済むかもしれないというのに。わたしが今いる廊下は人っ子一人見当たらず、まあこれが吉と出るか凶と出るか。リズは今彼氏さんと校内デート中だからまず助けてもらうことはできないだろう。
そういえばハリーは試合どうしたかな、と教室の扉の前に座って腕の中に顔をうずめたその時、目隠しの呪文をかけられる。慌てるわたしを誰かが押して、体はそのまま後ろに転がった。「コロポータス!」、…ああ、これは扉を完全に閉め切る呪文だ。参ったなあ、油断してたらこれなんだもの。わたしの呪文の記憶力、なめんなよ。

「…どうしよう」

人気のない廊下、しかも現在三大魔法学校対抗試合が行われているだけあってわたしに気付く人がいるはずない。先生たちが仮に気付いたとして、本当に助けてくれるだろうか。生徒たちの問題は生徒たちで、と言って何もしてくれないかもしれない。あの校長ならありえる。

しばらくすれば目隠しの呪文は解けた。

「だれかー」

しかし扉を閉める呪文はもちろん解けていなく、これを解く呪文も知らない。どうしたもんかな、と頭を抱えたその時、廊下を誰かが通った。…あ、

「ドラコ!!」

扉を一生懸命叩き存在を主張する。と、びくりと肩が震え驚いた顔と目が合った。わたしの必死な顔に気付きこちらへ歩み寄って来る。しかし扉を前にして、彼の顔は呆れたものとなった。

「…何してるんだ」
「ちょっと、ね。…開けれる?」
「…離れてろ」

その言葉通り離れれば、彼は杖を取り出し呪文を唱え扉を破壊してしまった。わあ、意外とそんなこともできるんだね。ていうか、わたしもそうすればよかったかな。ありがとう、と言う前にドラコに胸倉を掴まれる。

「…何?」
「…ザビニと仲良いんだな」
「まあね、パートナーだし。おかげでこのザマ、ありがとうドラコ」

ドラコが助けてくれたという事実がうれしくて少し微笑めば、胸倉を掴んでいた手は離してくれた。「僕が来なかったらどうしたんだ」、心配してくれているその発言に頭がくらくらしてしまいそうな気持ちになる。うれしい、な。
二人で廊下に出て、視線を感じた方向を見ればブレーズの元パートナーやお友達の方々、後ろの方にはドラコのファンだと思われる人たちもいた。ドラコが彼女らに気付いていないのでわたしも見て見ぬ振りをし、ドラコへついていく。そろそろかなあ。


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