結局わたしの初めてのホグズミードはウィーズリー兄弟によって散々だったのだけれど、なんだかんだで楽しかったからよしとする。そもそもわたしには恋愛だなんてまだ早かったのだ、もう少しお子ちゃまでいよう。そう、わたしは生粋の日本人。イギリス人みたいにすぐチュッチュチュッチュしないのだ。とか思ってる間にも先生の目を盗んで廊下にいたバカップルはキスをしていた。忌々しい。

「リズ、見せつけないでよ」
「あらごめん、いたの」
「最近わたしのこと放置し過ぎ。泣いちゃう、寂しい」
「ごめんね、そろそろ構ってあげようと思ってたのよ」

そう言ってわたしの頭を撫でる、というよりも最早かき乱していた。髪はボサボサになってしまったのだけれどリズが久しぶりに構ってくれたので嬉しい。「すみません彼氏さん、リズとっちゃって。これからは順番でお願いします」「アンタ何様のつもり」。リズに頭を握られた。

「それにしてもおもしろいわね、ウィーズリー先輩たち。まさかナマエに構いたくてわざわざそんな面倒なことするなんて」
「乙女の心を踏みにじられた」
「ウィーズリー先輩、なかなかハンサムじゃない。よかったわね」
「いいやリズ、わたしわかった。わたしにはまだそういう色恋沙汰は早かったんだよ」
「そんなこと言ってるとあっという間にババアになるわよ」
「来年、いや、再来年くらいには、必ず」
「…あっそ」

だってまだ、わたし13歳だし。そういうの本当に早いと思うの。





「僕の言った意味がわかっただろう」

そう言ってマルフォイはわたしの隣に座った。のどかな昼下がり、湖のほとりで教科書を読んでいる時のことだった。

「知ってたなら、最初から教えてよ」
「そこまでしてやる義理もない」
「金あるくせにケチだな」

それには返事をせず、マルフォイはフッと鼻で笑っただけだった。わたしは教科書に集中することなどもちろんできず、閉じて地面に置く。「いいのか?」「マルフォイがいるし」。そう言えば彼は変に照れていた。

「マルフォイってさ、面倒くさくないの?恋愛とか」
「な、んだよ急に」
「わたしは面倒だよ。浮かれたってどうせこうやってすぐどん底に叩き落とされるし」
「…そればっかりじゃないだろう」
「そうなの?あんたと違って相手がいないからそういうのわかんないわ」

横にいる彼は不満気に声を漏らす。「僕と、誰が?」「パーキンソンしかいないじゃない」。マルフォイの大きなため息が、わたしの心の中のゴミを吹き飛ばしてくれるような感覚がした。

「あいつとはそんなんじゃない」
「いっつもラブラブじゃん」
「…少なくとも、僕は違う」
「そう、じゃあ、大変だね」
「ああ、とてつもなくな」

突然隣から軽いビンタを喰らう。ぶっ、とわたしの悲鳴はとても醜いものだった。それを嘲笑うマルフォイに仕返ししようとして、やめた。そういえば気になっていることがあった。「ドラコ、って呼んでいい?」「え」「マルフォイ、って言いにくい。あの子の名前、えっと、ハーム、オイ、…」「…ハーマイオニー・グレンジャーのことだろう」。

「そう、その子よりはマシだけど」
「いいぞ、別に。…前にも、」
「え?」
「なんでもない」

グレンジャーの名前はびっくりするほど発音が難しい。それを彼女の前で披露するのも失礼だからグレンジャーと呼んでいるのだけれど、実はけっこう仲が良かったりする。ので、できれば名前で呼びたいところだ。これからドラコに発音教えてもらおうかな。リズは馬鹿にして教えてくれないし、スリザリンのみんなが好き好んでグリフィンドールの生徒の名前を何度も言うとは思えない。…それを言ったら、ドラコもだけど。

「その発音、教えて。もっかい」
「…グレンジャーの名前か?ふ、ふざけるな」
「お願い」
「………」
「ドラコ」
「……今度な」
「やったー」

本当に嫌そうだったのでなるべく一生懸命練習しようと思う。

「ところで」
「今日はよく喋るな」
「うん、あの、ホグズミード、…わたしのこと誘おうとしてくれてたの?」
「っな、なんで今それを言う!!」
「え、えー」
「、ああそうだよ、悪いか?」
「別に。今度一緒に行こうよ。グレンジャーの発音教えてもらうかわりに、何か奢ってあげる」





「…約束だぞ、破るなよ」
「うん」
「破ったら、父上に言いつけるからな」
「うわ出たファザコン、キモ」
「黙れ!!」

ドラコといると話がつきないし、飽きないし、最近嫌味くさいのも減って来た。きっと彼はわたしを部外者から友達に昇格してくれたに違いない。リズに教えたって興味なさそうだな、彼女はわたしがもっとつらい悲しい思いをする出来事の方が喜ぶから。所詮彼女はサドなのです。


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