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試験まで残り数日となった今日は、数学が苦手らしい高校の友達と勉強会をしている。ランチの混雑時間を過ぎたファミレスには、私たちのような学生やノートパソコンを開く社会人がまばらに座っていた。
練習問題を解き終わり、チラリと高校の友達の様子を見る。ぶつかりそうなほどノートに顔を近づけているのは集中している証拠だろう。手元を見れば先程教えた公式にうまくあてはめて計算してできているようだ。集中しているところに声をかけるか迷ったが、ジュースとってくるねと一応話しかけたらうん、と相槌は返してくれた。

「あれ。」
「お、苗字じゃん。」
「ん、あー!久しぶり!」

カルピスのボタンを押してガガーと注がれているところを見ていると現れたのは、中学時代の同級生、勝己君とよく連んでいたあの二人が立っていた。「よう。」「久しぶりー。」と話しながら彼らも持っていたグラスに炭酸飲料を注ぎ始める。卒業してからまだ数ヶ月しか経っていないので全然変わっていないが、私服姿は初めて見たので新鮮な雰囲気だ。あ、タバコやめたかな。

「どうよ、雄英は。」
「毎日刺激的だよー。今は期末の時期でめっちゃ勉強してる。」
「雄英の期末とかヤバそうだな。でもお前なら大丈夫っしょ、カツキに勝って一番とったりしてたし。」
「確かに、私ががんばらないと過去の勝己君に怒られちゃうね。」
「そういや体育祭見たぜ。お前はともかくカツキも緑谷もすごかったな。」

ケラケラと笑いながら話す彼らに、思わず耳を疑った。勘違いでなければ、私をからかいつつ今彼らがたたえたのは勝己君と出久君の二人だった。出久君のことも、すごかったと言ったのだ。

「、出久君も、すごいでしょ?」
「あー、なんかな。全然中学ん時と違ったわ。」
「でしょう!出久君聞いたら喜ぶよ。」
「そうだなぁ。アイツには悪いことしたな。」

出久君のすごさが伝わり始めている。彼のストイックさ、ヒーローへのこだわりが周りの価値観に影響を与えている。泣き出しそうになったのをぐっと堪え、瞳の表面に滲み出た涙がバレないよう瞬きを我慢した。

「カツキとはうまくやってんのか?」
「う、うまく…?どうだろ…でも勝己君も相変わらず最高に最高だよ。」
「ハハ、発言がアホだな。」
「せいぜい怒られねえように気をつけろよ。」
「ヴ…頑張ります。」

既に手遅れなアドバイスをされてしまい何の言葉も言えない。二人と別れ自分のテーブルに戻ると、高校の友達が達成感に満ちた顔でジュースを飲んでいた。

「友達?」
「うん、中学の時のね。問題終わった?」
「なかなかいい感じ。」
「よし、交換して丸付けしようか。」

高校の友達の書いた答えと解答を照らし合わせながら、先程言われた言葉を思い出す。勝己君がもともと怒りやすいとは言え、恐らくその回数は他の人よりも多いだろう。その分話せていると喜ぶべきなのか、そもそもの馬が合っていないと悲しむべきなのか…。しかし勝己君は私のことが本当に嫌いだったら相手にしないはず!と喜びかけたが、いつも私が背中追いかけて一方的に話してるだけだと気付いた。詰んだ…。
いつもこんなこと考えてるのにいざ本人を目の前にすると様々な決意が散っていくんだよなぁ。反省反省、いい加減理性を覚えよう私。

「あ。」
「え、間違えてた?」
「いや、あれカツキクンじゃん。」
「え??!!」

バッと勢いよく振り返ると、今にも舌打ちをしそうな顔で勝己君がグラス片手にドリンクバーに向かっているところだった。う、嘘…だろ…こんなところでプライベート勝己君拝めるなんて…!ドリンクバーを利用している勝己君なんて滅多に見れないと思い、瞬きを惜しんで網膜に焼き付ける。

「ごめん高校の友達、立ち去るまで見てていい?」
「それはいいんだけど、行かないんだ。意外。」
「……行って話しかけたところでウザがられるだけだし。」
「カツキクン絡みの名前ってなんかおかしいもんね。」
「なんだろう…本人目の前にするともう何も考えられないっていうか、精神状態おかしくなるっていうか、本当に気をつけたいんだけど正常じゃなくなるの。」
「それ、完全に好きじゃん。」
「うん、完全に大好き。」

「なんか違うんだよな…。」という小さな呟きは華麗にスルーした。勝己君はドリンクバーに着くと少しだけ視線を彷徨わせ、すぐにグラスを置いてボタンを押す。決断力ある勝己君も好き!しばらくするとジュースで満たされたグラスを持ち、自分のテーブルに戻るためドリンクバーを去ろうとする。が、不意に周りをキョロ、と見回したので、そんなに遠くではない席からガン見していた私とバッチリ目が合った。
目が合った瞬間私の胸はドキッと音を立てたが、勝己君は一瞬だけ固まってからすぐに眉間に皺を刻んでギロ!とこちらを睨み付け、ドスドスと音を立てて自分のテーブルへ戻って行ってしまった。

「えっかわいいかよ…勝己君のファンサってマジでブレないな。」
「私もうすぐ終わるよ。」
「はい!すぐやります!」

見えなくなるまで勝己君を目で見送って、採点を再開した。気持ちを切り替え、目の前のノートにしっかり集中する。

「…よし、お待たせ。もう完璧じゃん!ほら。」
「え、もしかして全部できてる?よかったぁ、テストなんとかなりそう。ありがと名前。」
「ううん、よかった。他の科目進んでる?」
「うん、けっこう余裕そう。」
「うわすごいな、私もう少し暗記系やらないと自信ないかも。」

高校の友達の言葉を聞いてバッグの中で待機させている数学以外の教科書を取り出すか迷った時、店の奥がザワッと騒がしくなった。思わず高校の友達と顔を見合わせ、何事かと二人でその方向に視線を向ける。そちらは勝己君が先程消えて行った曲がり角の向こう側だった。

「ヴィランじゃないよね?」
「うん、多分ただの賑やかなお客さん?」
「じゃあよかった。いやよくないけど。」
「…聞き覚えのある声のような気もする。」
「は?この怒鳴り声が?」
「…うーん…。」
「マジで?大声出してんの?ファミレスで?雄英のヒーロー科が?」
「…うーん…。」

その騒ぎ具合に、すぐにファミレスから追い出されていたのは見覚えのある人たちだった。あれ、切島君だ。中学時代の友達と会って遊んでいたわけじゃないのか。まぁ私のように偶然会って話はしたかもしれないが。それを苦笑いしながら眺めていたところ、ふと高校の友達が口を開く。

「あんな怖い人の何がいいの?」
「あはは。怖いけどいい子だよ。」
「いい子の範囲広すぎでしょ。」
「幼馴染なんだよね、昔からよく助けてもらってるんだ。」

ファミレスの中から勝己君と切島君に向かって手を振ったら、切島君は笑顔で振り返してくれたけど勝己君は一目見ただけでガン無視だった。










期末試験が無事に終わり、私の在籍するC組にも平穏が訪れていた。返却された答案用紙も悪くない点数だし、一緒に勉強した高校の友達も数学の点数がよかったと喜んでいた。試験前のあの緊張感の漂った教室、中学の時とシャレにならないレベルで違い過ぎて早く慣れたい。雄英怖すぎ。
ヒーロー科は私たちのような筆記試験の他、実技試験も行っていたらしい。実技試験があるという話を聞いた時にはこれ絶対何かあるヤツだと確信したが、残念ながら当日はもちろん通常授業のため見に行くことはできなかった。こっそり職員室へ実技試験のスケジュールを見に行こうかとも考えたが、万が一自分の受ける試験問題を見てしまったらそれは大変なことなので泣く泣く諦めたのだ。
すべての試験が終わったあと、一度勝己君に会ったのだが試験の話をしたら死ぬほど機嫌が悪くなった。ここ最近学校の話は基本すべてタブーらしい。勝己君生きづらすぎるね。頑張って壁を乗り越えて行ってほしい。プルスウルトラ!



「オイ!!」
「…え?」
「さっさと起きろやグータラ女。」

入学してからテストまで休みなく頑張ったから少しくらい、と休日に二度寝三度寝ぶちかましていたら推しの声で目が覚めた。ぼやける視界に推しのようなシルエットが見える。

「準備しろ。出かけんぞ。」










私、苗字名前!納税に苦労してたら20代半ばで人生がリスタート(笑)した普通の女子高生!新しいお家のお向かいに住むカツキ君が大大だ〜〜い好きなんだけど、ちっとも仲良くなれないままなの(泣)そんなある日、大好きな推しからの突然のお誘いが!?二人で買い物なんて行ったことないのに、一体私どうなっちゃうの〜〜?!
次回、ドキドキッ!最推しと初デート!
お楽しみに!



してます私!!!!!!!
飛び起きました!!!!!!
秒で準備します!!!!!!!!!



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