8(体育祭3)


最後の一回戦目、勝己君とお茶子ちゃんの戦いは勝己君が勝利を収めた。最初は勝己君からの一方的過ぎる展開かとハラハラしたがお茶子ちゃんはちゃんと考えての行動だったらしい。たくさんの瓦礫が勝己君に向かって落ちていく光景を見て、私はヘドロヴィラン事件を思い出していた。瓦礫が飛んで来ても平気だったのは幽体だからであって、生身で受けるなんて恐ろし過ぎる。勝己君普通に全部爆破でぶっ飛ばすなんて…最強か…。それにしてもいけるかと思ったらいけなくて絶望させられる主人公のラスボス戦みたいだ。
えっあれでも今あの勝己君がお茶子ちゃんのこと麗日って呼ばなかった?!名前認識した?!超好戦的な笑いめちゃくちゃ色っぽ過ぎ、ってお茶子ちゃん倒れちゃった!!!!あぁ!!個性使い過ぎたのか…そっか…、………。

「…推せるな…。」
「ちょっと名前の友達怖すぎなんだけど。」
「実は死ぬほどキュートだから安心して。」

お茶子ちゃんのこと名前呼び…苗字だけど。なんかこう、フラグを感じた…。そうか、デクとお茶子ちゃんももちろんなんだけど確かにかっちゃんとお茶子ちゃん…あるな。ありえるわ。すごい。イイ。なるほど。なんていうんだろ、バクウラ?これはこれで推せる。
新たな可能性にときめいている間に、引き分けだった切島君と鉄哲君は腕相撲で切島君の勝利が決まった。次は勝己君と切島君かー!君たち本当仲良いな!!
続けて行われた出久君と轟君の戦いは、想像を遥かに超えるグロさで気を失うかと思った。何がグロいって、出久君が一回戦とは比べられないほどに怪我をしたのだ。馬鹿じゃん痛い!痛すぎる!!手とか腕とか真っ黒じゃん!!そりゃ全力で戦う姿、二人ともかっこいいけどさぁ…轟君も、凍傷みたいになりかけながらなんでそんな体張れるの…ヒーローへの思い熱すぎ…。痛そうすぎてこっちが泣いたわ。社会人の涙脆さ舐めるなよ。
そして、出久君に煽られる形で頑なに使わなかったらしい炎も使ってついに決着、轟君が勝っ、ん?え?!あれ!?出久君負けなの?!ここで負けちゃうの??!!そううまくはいかない展開なのか…まぁまだ5巻というか入学したばかりというか…だしな。印象はすごかった。つい二、三年前まで無個性だったとは思えない戦いだったよー!めっっっっちゃ痛そうだけど!!リカバリーガールいてよかったね本当…。

「また疲れてない?名前。」
「うん…ちょっとトイレ休憩してくる。」
「いや今ずっと休憩みたいなもんでしょあたしら。ジモトモへの感情移入すごいねー。」
「うん…尊敬してるの、二人のこと。」

マジで痛みと恐怖に強すぎて。地元の友達というかもうここにいる人たち全員芸能人みたいなもんだからな、気が緩む瞬間が全然ない。いつか慣れるんだろうか、慣れてしまうんだろうか…。落ち着いて話せるようになっても一生このありがたみは忘れずに生きていきたいな。
トイレに行って用を済ませる。喉が乾いたからついでに飲み物でも買っていくか。くるりと自販機の方へ方向転換すると、遠くに聞こえる歓声で次の試合が始まったことがわかった。早くもーどろ!次は飯田君とB組の塩崎さんだったな!塩崎さん…茨ちゃん。めちゃくちゃ美人だよなぁ…。B組の子たち本当綺麗だよなぁ。A組女子はかわいくてB組女子はキレイって感じ。はああああ至近距離で拝みてえええ。クラスは隣だからチラチラ見かけるのだが、彼女たちはなんだかこう、高嶺の花というか、近づきがたいオーラがある。情報少なくて私がチキっているだけなのか。
オーラといえば、辿り着いた自販機近くのベンチにものすごいオーラの人がいて、輝いていて、圧がすごい。飲み物を選ぼうとしていても気になってそれどころじゃなくて、いやそりゃそうだよなんでここにエンデヴァーいるん????
テレビや紙面でしか見たことなかったから実際見てみるとデカすぎて視界に入った瞬間小さく悲鳴を上げた。申し訳ない、だってびっくりしたんだもん…。しかしセンチメンタルっぽい雰囲気を醸し出しているエンデヴァーの目線は床に向けられており、全然こちらを気にしていないようだった。きっと息子さんと何かあったんだろうな…。さっきの戦いの時スタジアムが静まり返るくらい響き渡る声で応援?して、そして試合終わりに息子に絡みに行かないわけがない。それにしても意外と親バカなんだなー。その親バカが度を越してるから超超超複雑家庭事情抱えてしまったんだろうけれど…。何故こんな捻くれた性格になってしまったんだろう、こういうタイプは実はみんなカワイイって相場が決まっているから早くみんな幸せになってくれ。
もちろんエンデヴァーとモブ女子高生に接点などあるはずもなく、どうにか数種類あるお茶の中から一つ決めて、そそくさとその場を立ち去った。

「あれっ飯田君と塩崎さんの試合もう終わったの?」
「飯田って奴の足が速くてわりと一瞬。」
「へーそっかぁ…。あ、三奈ちゃんと常闇君だ。」

先の戦いを見ても、三奈ちゃんはかなり運動神経が良いようだった。しかも酸…。かかったら痛いじゃ済まない。えっヤバ強個性じゃん。ダークシャドウもかけられたら痛いんじゃないかな…。痕残らないといいけど…。
私の心配を他所に、二人の試合は常闇君が勝利した。三奈ちゃんの個性じゃ明るさなんて変えられないから、ダークシャドウはあっという間にその場を制してしまった。もっと暗いところだともっと強いんだっけ?は〜暴走展開とかありそう〜。
そしていよいよ勝己君と切島君である。最初からガツガツにぶつかり合い、その轟音が鳴る度心臓がバクバクしてしまう。いくら切島君の個性でめちゃくちゃ硬いとは言え、勝己君のあの爆弾拳は痛くないのだろうか…。勝己君もまだ打開策を見出せていない顔して、あ、左脇効いて、アアーーーーーー切島君ンンーーーーー!!!!!爆破された……勝己君死ねって言ってた……うわっあんな爆破されながら殴られて切島君生きてる…?!いや死んでたらまずいんだけど、やっぱりこの世界の人たち、個性持ってるだけあって元の体が頑丈過ぎる。でも顔まで丸焦げじゃんやばすぎ…。勝己君は優しいから今のところ直接爆破されたことはないけれど改めて気をつけようと思った。いつも怒らせちゃうから。
これで4人出揃った。準決勝は飯田君と轟君、常闇君と勝己君だ。
飯田君と轟君の戦いも、決着は早かった。飯田君自体のスピードがとても速くて、始まってすぐに轟君に強烈な蹴りを入れてそのまま場外に連れ去ってしまうかと思ったが、彼の足に氷が張られ行動不能となり轟君が決勝進出を決めた。スマートォ。
続けて常闇君と勝己君は、勝己君が押して押して押しまくっていた。常闇君はなかなか攻撃に回れない。やっぱり明るいの苦手だからだ…ダークシャドウちょっと泣きそうな顔してる。それにしても戦ってる時の勝己君って、本当顔が…イイ…かっこいい…!!元の顔が本当にいいんだなぁ。好き。どちゃくそタイプ。動いてもイケメンどんな瞬間もイケメンなんて1000年に一人の美少年、……うーーん美少年って感じはしないな。美少年はどちらかといえば轟君の方か?勝己君はなんていうか…かっこいい。戦うことが、一番になることが好きだから、好きなことしてる時は輝いて見えるからその影響なのかなぁ。あとは男らしさを感じているのだろうか。小さい頃ばくごうかつきと名乗られた時から将来に期待はしていたけれど本当に爆豪勝己だったし本当に顔がいいし、そんな彼を小さい頃から高校生まで拝めるなんて幸せな人生だなぁ。卒業後は早くプロヒーローになってもらってたくさんグッズを販売してもらいたいものである。あーーーーーかっこいい。どんな顔も好きだ、ああやって常闇君を押し倒し口元を押さえ、右手は脅すように爆破を続けているあのヴィラン顔も、観客席にいる轟君を下から睨み上げる顔も本当に好きだ。
ふぅ、と息をついて買ってきたお茶をゴクゴクと飲み干す。この推しを生で観戦する良さよ。酒が飲みたいわ。
不意にトントン、と肩を叩かれ、隣を見ると真面目な顔をした高校の友達がこちらを見ている。

「名前ってさぁ。」
「ん?」
「…カツキクンなら勝って当然、的な感じ?」
「エッ??」
「なんか思ったより喜んでないから。」
「アッイヤウーーーーン、もちろんみんな強いよね!すごい個性だし、あんなん私とか巻き込まれたら普通に死ぬし、さすがヒーロー科って感じ!あはは。」
「うん。」
「……けど、うん、勝己君って、とびきりすごいわけよ。すごく強くて、かっこよくて、なのにかわいくて、負けるところ…は見たことある?けど、いつも一番を目指してて、向上心の塊で、ストイックで、」
「…。」
「だからこうして勝ち上がってる姿、すごく嬉しいし拝めて最高なんだけど、多分、…どんな結果でも驚かないのかも、私、勝って当然とまでは言わないしもちろん負けることもあるって思ってるから、…なんていうのかな、つまり、」
「…それって、」

「存在が尊い。」
「想像以上に重いな。」

勝己君と轟君の決勝は、思わぬ形で終わった。てっきりなかなか決着がつかない感じで持久戦に持ち込まれるものかと思いきや、勝己君の大技を轟君が無防備のままモロに受け、ぶっ飛ばされた。炎を一瞬出したような気がしたんだけど…。何か理由があっただけで手を抜いたわけじゃないだろうけれど、もっと抵抗できたはずなのに。そんな轟君に勝己君がブチ切れたけどミッドナイトに眠らされてかわいい寝顔を全国にお届けしたところで雄英体育祭は幕を閉じた。やった!!大きくなってから勝己君の寝顔見たことないから嬉しい!!録画して来てよかった!!頼むぞテレビ局ちゃんと撮ってるよな!?!?!





そんなこんなで本日と明日はお休みである。たった二日間で体育祭の疲れがとれるだなんて高校生って本当にすごい。私は大して運動してないし普段は相澤先生のアドバイス通り体力作りしてるからあまり影響はなかったけれど、あんな命懸けの体育祭の傷はたった二日じゃ癒えないだろうに…普通は。
母も体育祭の結果はテレビか何かで知っていたらしく「勝己君に何かお祝いのもの持って行こうかな?!」と二人で話していたが、結果に納得いっていないようで機嫌が悪いのだと光己さんに聞いたため、爆豪家の晩ご飯に母と私で作った激辛麻婆豆腐を忍ばせることでこっそりお祝いをさせていただいた。光己さんのご協力に感謝。
二日目の休みは録画していた体育祭を見ていた。最初は母と一緒に見ていたのだが、急にお客さんから連絡が来てしまったらしく夕方までには帰って来る!と宣言して出かけて行った。大変だなぁ営業職。

「……はっやばっドアップ、写真撮っとこ。………うわここもじゃんテレビ局ナイスすぎ、ん、誰だろう。」

ドアップの勝己君が映る度に一時停止してスマホで写真を撮る。観賞以外に用いらないので許してほしい。綺麗に枠に収まるようテレビの写真撮影をしていたらインターホンが鳴った。聞いてないけど、お母さん荷物とか頼んでたかな?元々この時間もいる予定だったし。撮影は一旦中断しインターホンを見て、その写った人物に目を開いて慌てて玄関へと向かう。

「はい!!?」

インターホンを鳴らしたのはお向かいに住むマイスイートエンジェル勝己君であった。いつものムスッとした顔で私を捉えたあと、チラリと家の奥を見る。

「おばさん、出かけてんのか。」
「あ、うん。お客さんから連絡来て、仕事に。」
「…皿返す。」
「うわっわざわざごめんお手数おかけしました。」

麻婆豆腐を盛り付けて爆豪家に出張させていたお皿だ。麻婆豆腐は苗字家からだと言わなくていいと話していたが、勝己君が返しに来たということは普通に気付かれたのだろう。まあいつもとお皿も味も違っただろうし、ただそこで本人が返しに来るのが爆豪家っぽい。勝己君は積極的にお皿返しに来るような性格じゃないだろうし、光己さんに言われて来たんだろうな。

「体育祭お疲れ様。」
「…。」
「今ちょうど録画見てたよ。」

一応労いの言葉をかけてみると一瞬でイラッとした顔になった。ウルセェとかダマレとか言われるかと思いきや、ここで叫び散らかしたところで八つ当たりになることは自覚があるようでグッと堪えている。そんな様子に苦笑いをし、「麻婆豆腐、お粗末様でした。」と家の中に入るためにドアを押さえていた手を離すと、ガッ!!とドアが勝己君の手によって開かれた。ドアを押さえて無言でこちらを睨みつける表情に不安がよぎる。何かやらかしてしまっただろうか。一言でも体育祭に触れない方がよかった?

「…えっ殺される?」
「人を暴漢みてェに言うんじゃねえ!」
「麻婆豆腐まずかった?」
「別に、まずかねーわ。」
「そっか、それはよかった。」

じゃあどうしたの?とストレートに聞きたいがそれだと更に機嫌を損ねそうである。少し迷ってから口を開く。

「えーと、体育祭の録画見てく?」
「は?」
「いや、勝己君んち、録画してないから、見たいのかと…。」
「……。」
「あっ見たくないんだっけか。」
「余裕だわナメんな!!」

言葉を間違えて煽るような形になってしまい機嫌は損ねてしまった。学習しろよ名前体育祭で勝己君の本当のかっこよさと共に恐ろしさを目の当たりにしただろ…。しかし勝己君が休日に家に遊びに来たというシチュエーションができあがってしまったので結果オーライだと思っている。本当反省しろ私。
どうぞ、と体を開いて勝己君を招き入れた。ああーーー口悪いくせにさ〜乱暴なところもあるくせにさ〜靴をちゃんと綺麗に揃えちゃってさ〜〜〜。礼儀作法とかはしっかりしてるのはずるい。普段不良っぽい子が当たり前のことするとよく見える現象ってなんなんだろう。なんだか不平等であまり好きじゃない現象なのだが、勝己君に対してだけはどんな感情も素直に受け入れていきたい。いやしかし普段から本当に礼儀正しいんだよなどういうことだよ。
リビングで適当に座ってと声をかけ、まっすぐ台所に向かう。お茶と、確か何かつまむものがあったような…勝己君食べないかな。

「勝己君、何か食べアアアーーーーー!!!!待って!!それは!!違うの!!!!」

話しかけようと顔を上げて、テレビの前に突っ立っている勝己君とテレビに映るドアップの勝己君が両立している光景にギョッとした。慌てて勝己君とテレビの間に置いてあるリモコンのところへ走って行き、何のボタンを押せばいいかオロオロしたあととりあえず一旦普通のテレビに戻した。ウオォ……この変態ストーカー行為を本人に見られるなんて…。どうしよう、なんて言い訳すれば…。

「えーと…。」
「何がちげーんだ。」
「いや、たまたま録画とめた瞬間が勝己君だっただけだから、」
「そりゃそうだろ。」
「!」
「それ以外に俺の顔で一時停止してる理由なんかあんのかよ。なぁ?」
「…。」
「言ってみろよ、ストーカー女。」

後ろから聞こえてくる言葉に、心の底から確かにと思った。勝手に一人で焦ってしまった。勝己君に対していろいろ一方的に感情ぶつけすぎたかなと体育祭で一瞬反省したからちょっと控えめにしようと思っただけなのに。まさかこんな、人によってはドン引きするであろうタイミングを見られてしまうとは夢にも思わなかった。インターホン見て勝己君がいた時点で消しておくべきだった。いやあの時はまさか家にあがるなんてそれこそ夢にも…。

「何黙ってんだ。」
「ウ…。」
「スマホ見せろや。」
「………悪いけど!勝己君の、ファンとして!体育祭の勝己君をいつでも見返せるようにしておきたいの!ファンだから!!」

スマホを絶対に渡さないと強く握り締め、ファンの部分を強調しながら勝己君に対抗した。渡したら今のデータだけじゃなくて過去のデータも消される可能性がある。それはまずい。やっぱり印刷してアルバムも今から作っておくべきだろうか…。確かバックアップも最後にやったのはいつだったか、全部はできていないはず…。
勝己君が私の隣でヤンキー座りをし「へぇ?」と顔を覗き込んで来た。追い詰められたような気持ちになり真逆の方へ目を逸らす。あと普通に顔面が良すぎて直視できない。この距離で見たら失神する。無理。画面越しとか幽体でとかならまだしも、生身の爆豪勝己は体に悪すぎる。良すぎて。

「そんなにいいかよ。」
「はい、勝己君は常に私にとって一番なので、どんな勝己君も私は応援しているし保存をしておきた、」
「言っとくが俺はあんなんじゃねーぞ!!」
「ですよね!!」

ですよね!!!!
でも写真は消さないからね!!!!

「…相変わらずキメー奴だな。」
「もう迷惑かけないので許して下さい…。」
「ハッ。」

勝己君が足元にあるリモコンを拾う。操作すると、テレビは勝己君のドアップに切り替わった。もしや録画を消されるんじゃ、と真っ青になったが、どうやら早送りをしているだけのようだ。しばらく二人で流れる映像を見たあと、勝己君がピッと録画をとめた。……あぁ?!

「えっこれっ、私じゃん!」
「ブサイクなツラしてんな。」
「走ってるとこ撮るなんて悪意あるしか感じない…。…ちょ、何してんのやめてよ!なんで撮るの?!」
「一緒だろ。」
「何が?!怒るよ!?やめて!あーーーーコラ!!」

なんで私のブス顔を撮るんだよ!!やめろ!!いくら勝己君でも怒るぞ!!うわ案外私映ってるな、追加で撮るなやめろ!!てかここまでの再生がスムーズだったなさては一度録画見終わってるな?!ですよね爆豪家で録画してないわけがないもんね!!っておいいくら推しでも許さんぞ!!何嫌がらせ捗ってんだ!!だって必死すぎて顔面崩壊しながら全力疾走してるところを推しに見られるの、普通に嫌じゃない???!!!



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