個性をいじられない理由


俺は折寺中に通う中学三年生。個性は腕が少しゴムのように伸びること。多分、アイツに言わせてみればモブというやつの一人なんだと思う。
アイツとは、俺の学年にいる超有名な男子、名前は爆豪勝己。入学した翌日に先輩から呼び出されたけれど逆に一人で返り討ちにしたという、嘘のような伝説を持っている奴。多分おおよそ本当。しかしただのヤンキーかと思いきや勉強ができるらしく、曰くヒーローを目指しているとのこと。少し怖いけれどそれなら納得だと、それ以来先輩を含めて誰も爆豪に逆らう奴はおらず、今では男子からも女子からも案外人気者。

爆豪といえば、不思議な?変な?幼馴染がいる。苗字名前という女子で、俺は昨年から同じクラス。そう思っているのは俺だけじゃなく、多分同級生はもちろん今は卒業していない先輩たちも同じように感じていたと思う。
何故不思議なのかというと、それは一年の時に起こった話。



***



中学校生活初めての夏休みが終わり、同級生との距離感や先輩との上下関係にあった様子を伺うような雰囲気も和らいだ頃。みんなに漂っていた緊張感がなくなっていたと思う。その頃には、絶対的に強い奴とか、気が弱い奴とかがなんとなく決まっていた。みんなの個性が判明してきていたからだ。
個性の弱い者、時折いる無個性の子などにはみんな強く当たるようになっていた。俺は近所に住んでいる一つ上の仲の良い先輩が無個性だったので、無個性だからといってとくに何か思うところはなかった。
しかし爆豪は違っていた。自分が一番強い個性持ちを自覚しており、周りにもそうだったが、とりわけ緑谷には強く当たるのをみんなは何度も見ていた。小さい頃かららしい。

すると誰かが言った。
「苗字って無個性なんじゃないか?」と。
確かに誰も苗字の個性を見たことはなかった。同じ小学校の奴らすら知らず、「無個性ではないはず」と言うのみ。

小学校の頃とはまた違う人格が形成されるこの頃。強くてかっこいい爆豪に倣い、一部の女子が爆豪が緑谷にするような態度を苗字にも向けるようになった。多分、あれは完璧にイジメだったと思う。
まだ別のクラスだった俺が見かけたのは、ゴミ箱の前で上履きから何かを取り除いているところや女子トイレから頭を濡らして出てきたところ、誰も来ないのか一人で掃除しているところ、等々…。爆豪のことが好きな少し派手なグループが好きなようにやっていたようだ。
苗字は気が弱い性格ではないと思っている。それはイジメが始まってからもそうだった。何事もないかのように過ごしており、いつも一緒にいる仲良い女子とも普段通り生活していた。その女子は花の個性がハッキリしているからか、苗字だけが手を出されていた。しかしみんな苗字が平気そうだから、あーまたか、ととくに気にしていなかった。

そしてとうとうあの出来事が起こる。

その日は風邪を引いたか何かで苗字は欠席していた。みんなが思い思いに過ごす昼休み、隣の教室から突然爆発する音と女子の悲鳴が聞こえた。
みんながびっくりして隣のクラスを見に行く。廊下の奴らはすでに何事かと教室を覗き込んでいて、俺も友達と様子を見に行った。
隣のクラスには、尻餅をつく女子数人と、そいつらの前に立つ爆豪がいた。あとから噂で聞いた話だが、女子たちはわざわざ休んでいる苗字の教室に来て、椅子に何か細工をして座った拍子に転ぶようにしていたらしい。
爆豪が女子に手をあげている?そんな馬鹿な。ザワザワする俺を含むギャラリーたちは、爆豪が話し始めると耳を澄ますように口を閉じた。

「幸せモンだなぁ。アイツの個性知らねーで、好き勝手やれてよ。」
「え…?だってあの子、無個性じゃ、」
「ハァ?無個性なわけねーだろ。」
「じゃあなんで誰も知らないのさ!」
「知らねーよ。本人に聞けや。」

驚いた。苗字は無個性ではないと。やはり何かしらの個性があり、爆豪はそれを知っている。

「アイツの個性使えば、テメーらみてえなクソアマは一瞬だろうな。あと俺の周りうろちょろすんなウゼエ。」

意味深な言葉を残し、爆豪は「どけモブ邪魔だコラ」と集まるギャラリーを蹴散らしてその場を去った。
あの爆豪が言うのだから、苗字は無個性ではなく、むしろ相当強い個性を持っている…?目撃した生徒も多かったので、噂は瞬く間に広まっていった。何故爆豪だけが知っているのかという疑問も、あの二人は実は家が真向かいで幼馴染なんだと誰かが話して一瞬で解決した。学校では二人で話すところなど一切見かけないから、まさか二人が繋がっているとはイジメをしていた女子たちも知らなかったらしい。

次の日から苗字の周りからイジメは消えていた。しかし彼女自身は何も変わらず、イジメがあってもなくても同じように過ごしていた。
この件で苗字は学校のほとんどの人に知られたと思う。“個性は謎で何にも動じない爆豪の特別な幼馴染”。特別な、とつくのは、緑谷も一応幼馴染らしいからだ。緑谷と苗字に対する態度がまったく違うのは一目瞭然だった。

とにかく不思議な、変な奴だとみんなが思った。



***



昨年同じクラスになった際、初めてまともに話した。「腕が伸びるの?ルフィみたい!」とよくわからないことを言っていたが、やはり明るい子だと思った。その後一度だけ爆豪と一緒に登校していて、学校中がザワザワした。あの、爆豪が、女子と、登校。やはり二人は特別な関係なのだとみんなが察した。

今でも個性は謎のままだ。勇気のある誰かが聞いた際、「うーん、ふわふわしてる感じ。恥ずかしいから内緒。」とだけ答えていたのが聞こえたのを覚えている。ふわふわしていて、恥ずかしくて、一瞬でやられる個性。みんなの謎だけが深まったのだった。










「勝己君が?私を?庇った?そんなわけないよーきっと私が休んでまであの子達の恥ずかしいところかき集めてるの知ってむしろあの子たちを守ってあげたんじゃないかな!」
「…まぁ確かに名前の個性を知らないで好き勝手できるのは幸せ者だなって、私も思ったよ。」
「えっ中学の友達とかにはもちろんしないよ?!やっぱりこの個性イメージよくないよねー心操君めちゃくちゃわかる…。」
「シンソウクン?」
「ううん!」



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