つらい、苦しい、憎い、寂しい、あなたといるとどんどん醜い気持ちが生まれてしまう。恋って、綺麗なままじゃいられないものだ。






「おっ苗字さん!こっちこっち!」

 喫茶店に入ると、大きな声で名前を呼ばれた。そこには真選組局長である近藤さん。わたしを案内しようとしたウエイトレスさんに会釈をして近藤さんが座っていたテーブルにつく。彼は今日非番らしい、私服を初めて見た。

「いやーすまんな、急に」
「大丈夫ですよ、えっと、お妙さんへのプレゼントでしたっけ」
「そうそう!」

 お妙さんラブな近藤さんが、なんでも今度お妙さんにプレゼントをしたいらしい。ただいつも何かにこじつけて拒否されているのは自覚しているらしく、身近にいるまともで相談に乗ってくれそうな女性、つまりわたしとプレゼントを選びたいそうだ。わたしなんかでいいのだろうかと思いつつも楽しそうなのですぐに了承したのは昨日のことである。

「わたし、お妙さんが好きなのはハーゲンダッツくらいしかわかりませんが」
「良さげなものを見つけたらそれにしよう、それを手伝ってくれ」
「わかりました」
「助かるよ!」
「あ、名前でいいですよ」
「わかった、名前ちゃんだな」

 にかっと満面の笑みにこちらも嬉しくなる。付き合いたいとは思わないけれど、こんなに愛されてるとお妙さんが少し羨ましい。ストーカーは勘弁だけど。



 正直な話、付き合ってもいないのに後々残るものは誰であろうと困るので、花束と何かのチケット、それにハーゲンダッツを添えようという話になった。赤いバラを百本頼もうとする近藤さんを必死に説得して無難な花束を作ってもらう。そのあと遊園地のチケットを数枚手に入れ、買い物は終了してしまった(数枚買った理由はどうせお妙さんは神楽ちゃんとか新八君を連れて行くなら行くとか言いそうだからなんだけど、みんな連れて行ったら好感度上がるし二人きりはその後でも遅くないですよと笑顔で告げたわたしはいい仕事したと思う)。

「まだ日も暮れてないし、どうする?どこか寄ろうか?」
「え、いいですよ」
「まあまあ。お、クレープ屋だ。食べるか?」

 現在おやつの時間、小腹が空いているのは否めない。それじゃあと二人でクレープ屋に寄り、わたしはイチゴチョコ、近藤さんはバナナを選んだ。もしかしてキャラ作りなのだろうか。
 クレープを片手に、食べ終わるまで町をブラブラすることにした。さすがに真選組局長は有名らしく近藤さんは知らない人に何度か声をかけられたけれど、わたしを恋人かと冷やかさないところを見ると興味がないのかお妙さんが浸透しているのか。

「あ、」
「うん?」

 綺麗な簪の並ぶ店に思わず声を漏らすと、近藤さんはすぐに気付き、そしてわたしを置いてその店に向かった。まだクレープを食べているわたしと違い、彼は既に食べ終えゴミを丸めていた。一歩遅れてわたしもその背を追いかける。

「綺麗だなあ」
「はい」

 二人で色鮮やかな簪を眺める。奥には扇子なども置いてあった。わたし達以外はカップルや女友達同士で、ふとわたし達は事情を知らない人が見ればカップルなのではと気付く。はは、いやまさか、こんなゴリげふんと。

「今なあ」
「?」
「名前ちゃんにお礼を兼ねて買ってやろうかと思ったが、やめた!そういうのはトシの役目だな」

 相変わらず優しそうな笑顔。その表情筋は一体どうなっているのだろう。

「総悟から聞いたよ、トシも反省してるようだし、許してやってくれ」
「………」
「確かにアイツは仕事ばかりしてるし女にもモテるが、名前ちゃんのことを本当に愛しているんだ」
「……はあ」
「気が向いたら、連絡してやってほしい。もう二週間だろ?」

 二週間。わたしが、土方さんからの連絡をガン無視している期間である。どうやら幸い休みがとれないらしく会いに来る様子もない。
 見上げると屈託ない笑顔の近藤さん。こんないい人に頼まれたら、頷く他ない。ある意味、やはり局長に向いている。
 わたしの反応を見た近藤さんは楽しそうに笑い、「いつか俺もお妙さんにあげたいなー」とプレゼントする時を妄想して簪をいろいろ眺めていた。



 その日の夜、土方さんに電話するとものすごい勢いで謝られ、後日休みのとれた土方さんは淡い赤の簪を片手にわたしの家にやって来たのである。土方さんとデートの約束するとテロリストとか女の人に邪魔されて失敗するけれど、テロリストとゴリげふん局長とのデートは普通に成功するんだよなあ。わたし達って家で大人しくしてた方いいのかも。

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テーマ「人外ファンタジー」
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