あなたがいない世界は、生きる価値などあるのだろうか。わたしにとってあなたがすべてなのに。






 先日急なお仕事のため駄目になってしまった土方さんとのデート。今日はその穴埋めデートである。昼間はショッピングをして、夜はわたしの家に戻りわたしの手料理という予定。うん、完璧。この間の失敗した分を取り戻せる。
 いそいそと準備をし、いざ出陣。この間と同じ公園で待ち合わせ。時計を見ればちょうどいい頃合いだったので、冷蔵庫の中を確認してから早速家を出た。

「あ、沖田さん」

 見廻りだろうかサボりだろうか、ブラブラしている沖田さんを見つけた。「ああ、怪我の具合はどうですかィ」。手を振るわたしに相変わらず挑戦的な笑み(少し違うかもしれないけれど)を浮かべながら、この間の二度目のバズーカの怪我について聞かれた。

「掠り傷だから平気」
「それは何よりでさァ。ところでその格好…」
「今日、土方さんとデートなの」
「ああ、通りで。でも確か土方クソヤローならさっき、」

 不思議そうな顔を引っ込め、ニヤリと沖田さんは嫌な顔をした。何、何、土方さんならさっきどうしたの。また急な仕事でも入ったの?
 「ついて来て下せェ」。沖田さんは楽しそうにわたしの手を引く。これを見たら土方さんまた怒るかな、とどこか嬉しさを感じるわたしがいる。ううん、わたしってば悪女。そんな呑気なことを考えながらつい、と曲がると見覚えのある背中を見つけた。

「あれって、うちのクソ上司ですよねィ」

 何も言えないわたしの手を、沖田さんは再び大きく引っ張る。それにつられてわたしも歩みを進める。

「おっと、見失っちまう。名前さん、もっと早く歩いて下せェ」
「…人の不幸は蜜の味?」
「とんでもねえ。俺はただ、かわいそうなアンタに現実見てほしいだけでさァ」
「ふふ、声が弾んでるよ、沖田さん」

 彼の顔を見上げると、にやり、と笑った。その顔のまま沖田さんは、クソ上司の肩に手を置いた。

「あ?…総悟、名前?なんで二人でいんだよ」

 その問いに答える前に、土方さんの隣にいた女性がこちらに視線を向けた。

「だぁれぇ?」

 その瞬間、はっとした顔をする土方さん。「あ、トシ君のお仲間さん?初めましてぇ」「こいつぁどうも」。“トシ君”の腕に絡みつきながら挨拶をする女性に、へらりとした顔で受け答えする沖田さん。その隣でわたしは何故だか笑いが止まらなかった。きっと“トシ君”の隣にいる彼女は、わたしを沖田さんの彼女か何かだと勘違いしているのだろう。「名前、違うんだ、これは、」。土方さんの慌てた声。それを聞いたわたしと沖田さんはより笑みを深めた。

「今日、なんでわたしがお化粧して、気合い入れてるか知ってますか?」
「…総悟と、買い物行くつもりだったのか」
「冗談は職業だけにして下せェ」
「テメッ、総悟!!」

 小馬鹿にして笑う沖田さんを怒鳴った土方さんの胸を抑える。どうどう、となだめるように。「名前…」。土方さんが仕方がない、とでもいうような声色でわたしの名を呼んだ。ええ、本当、仕方がない人ですね、あなたは。

「おもしろいですねィ、名前さんは、土方さんとデートの予定だったらしいんですけど」
「沖田さん、どうやらわたしの勘違いだったみたい」

 そのセリフで、土方さんは顔を真っ青にした。気が付いたようである。もう遅い。

「二度と連絡して来ないで下さい」

 わたしの手が土方さんの頬にジャストミート。さりげなく沖田さんも足をかけて、彼はすっ転んでいた。

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