それからのことはアリスもよく覚えていませんでした。ただ、気が付くと目の前に女王がいました。
「さて、アリス。どこに行こうとしていたのかな」
「…せ、せいじゅ」
「女王様」
「…は?」
「僕の事は女王様と呼ぶんだ。いいね?」
「…はい、女王様…」
なんてぴったりな役割なんだろう、とアリスは思いました。あまりにもマッチしているのでアリスは冷や汗が出てきました。
「まさかアリス、逃げようだなんてそんなこと考えてたのかな」
「滅相もございません」
「それはよかった。僕の大切な仲間達がこうして再会できたことは本当に嬉しいね」
よく見ると、女王の後ろで庭師が顔を真っ青にしています。まるで自分の顔を見ているような、そんな気がしました。
「よし、バスケをしよう」
「え?」
「体育館に行こう。みんな待ってる」
女王直々にアリスの手を引き、アリスを体育館へ誘います。その後ろを庭師もひょこひょこついてきました。大きなプレッシャーをかけられバラを赤く塗っていた上に、女王が登場しても何も突っ込まれない庭師があまりにも哀れだとアリスは同情しました。
「着いたよ」。体育館の扉を開けると、そこには既にたくさんのバスケの参加者が揃っていました。みんな思い思いに練習しています。これはオリジナルにおけるクロケーにあたるものだとアリスは気付きました。「真ちゃん!」。不意に誰かが近付いてきます。女王はいつの間にか消えていてアリスはホッとしました。
「高尾もいたのか」
「なんかおもしろそうだからよー。この子がアリスちゃん?」
「そうなのだよ」
「へー、どうも、俺高尾和成。真ちゃんのチームメイトな」
「ああ、どうも…」
「アリス疲れ切ってんじゃん!ギャハハ!」
お前はかなり元気そうだな、とアリスはげんなりしました。あまりにも自分と対照的で尊敬の意すら生まれてきました。きっとこの人がアリスならこのストーリーも楽しめたのだろうとアリスは思いました。
「これ、キセキの世代のいわゆる同窓会なんだろ?」
「同窓会?真太郎、そうなの?」
「赤司が、な。お前が卒業と共に消えるものだからみんな驚いたんだ」
「隠したわけじゃないけど」
「まあまあ!とりあえずバスケやろうぜ、お二人さん。アリスはできんの?」
アリスはちょうど壁に寄せられていたボールを手に取り、ドリブルをしながら「少しだけ」と答えました。そのままコートの中に入り慣れた動作でシュートを打つとボールはスパッと決まりました。
「おお、やるじゃん」
「あああアリス!やはり貴様はやってはだめなのだよ!」
「え、なんで」
庭師はひどく焦った顔でアリスを怒鳴りました。最早怒っているのです。身に覚えのないアリスは純粋に驚きました。「しししたぎがみえているのだよ!!」「…ああ…」。アリスが少しジャンプした拍子に見えてしまったようです、白ウサギにもそういえばパンツを見られたことを思い出しました。
「じゃあ俺のバスパン貸す?もう一個あるけど」
「え、どうしよう…、借りようかな」
「そんなこと僕が許すと思うかい」
突然女王が現れました。「やめよう、飽きた。アリス、行くよ」。ああ、真太郎もおいで。アリスと庭師は、その言葉に恐怖は感じませんでした。むしろどこか温かい感じがして、しかし昔のトラウマゆえに心臓がいつもよりは早くなりました。
「なんだよ、結局キセキの世代はやんねーのかよ」
「君達だけで楽しんでくれ」
庭師の友人とアリス、庭師は手を振り、彼女達は女王のあとに続いて体育館を出ました。体育館にはもうキセキのメンバーがいないことを確認してから、アリスはやっと終わりが見えて来たとため息をつきました。