フィンクスが私の家に訪れることが不思議じゃなくなった頃、私は親に妊娠したことを報告するため電話をした。母は驚いていたけれど、フィンクスが協力的なことを話したら少し安心したようで、今度実家に連れて来るよう話した。父には母から報告すると言っていたが、天国から私の妊娠生活を見守っていると思う。

「お前、父親死んでんのか」
「うん、小さい頃にね」

 母にはフィンクスのことを“相手”と呼ぶことで曖昧なままに、妊娠の報告をした。それで悟ったのか、結婚の話はされなかった。父と母はもともと私ができて結婚したらしいから、そこら辺に多少の理解はあったと思う。
 そもそもフィンクスは戸籍がないはずだから、結婚はできない。別にフィンクスと結婚したいわけではなかったし、できることなら一緒に育てたいという思いが強かっただけなので、どんな形であれ一緒にいれるならばそれでよかった。
 今度実家へ行こうという話はすぐに承諾された。

「お前実家で暮らさないのか」
「どうして?」
「母親一人じゃ寂しいもんなんじゃねえの」
「どうだろ。妹と弟もいるから大丈夫じゃないかな」

 フィンクスは質問したわりに、あまり興味なさそうな顔をした。一般の家庭についてあまりよくわからないけれど、常識と気遣いを考えての質問といったところだろう。帰省について、フィンクスと家族と日程を合わせないとなあ。
 不意にフィンクスがお腹に触れた。少しこそばゆかったけれどじっと彼の動きを受け入れる。服の上からじゃわからない膨らみに、フィンクスは不思議そうな顔をしていた。

「動くのか」
「確か早い人だとそろそろ胎動は感じるはずだけど。まだわかんない」
「おい、俺のガキなら腹ん中でパンチも蹴りも覚えてから出て来いよ」
「何馬鹿なこと言ってんの」

 あまりにも無茶苦茶な発言に呆れつつも、フィンクスの遺伝子を持つこの子なら確かにパンチも蹴りも覚えてから出て来そうだ。そうなったら出産する時大変だな、と思ったその時だった。
 不意にお腹の中でポコ、と動きを感じた。胃腸の働きではない初めて感じる動きだった。直感であ、と気付いた途端グネグネとお腹の中が動き始める。

「フィ、フィンクス!フィンクス!お腹!」
「なっなんだよ」
「動いた!お腹!胎動!」

 それを聞いた瞬間にフィンクスもお腹に手を当て、そのまま耳もお腹に当てた。しかしフィンクスが胎動を感じる体勢を作った時には、もう赤ちゃんの動きを感じることはできなかった。「わかんねえぞ!」「だってもう動いてない」。少し興奮した様子のフィンクスに冷静に返事をすると、クソガキ、と呟く。

「でも、フィンクスの声に反応したんだよ」
「んなわけあるかよ」
「あるよ。もうお腹の外の音も聞こえるみたい。きっとフィンクスに負けないようにお腹の中で鍛えてるんだよ」

 胎動を感じることができなかったことで不満気な顔をしていたが、私の言葉に満足したのかニヤリと笑って「俺に勝てると思うなよ」と私のお腹に話しかけていた。幸せってこういうことか。





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