わたしとフィンクスの出会いは五年程前のことになる。覚えていることはそれくらいで、きっとロクでもない出会い方だったはずだ。多分。そもそも人殺しとのロクな出会い方とは一体どのようなものなのだろう。
 しかし人殺し、と言うと少し語弊があるように思われる。彼らはまず第一に盗賊であって、その時障害になるため殺すのであって、一部を除き決して好き好んで人を殺すわけではないはずだ。ただ、人を殺すのに抵抗がないだけ。どんな育ち方をしたらそのように育つのだろう。きっと、ロクでもない育ち方に違いない。かわいそうだと思うけれど更生させてあげたいとは思えない。そんなこと口にしたら即、わたしの首飛ぶ。
 わたしはいたって普通の家庭で育ち普通に勉強をし世の中のことを学んで大人になった普通の女。お金をたくさん持っているわけではないけれど貧乏というわけでもない。成人を迎えた歳に一人暮らしを始めた。フィンクスと出会ったのはそれからのことである。
 世間から見てわたしたちはいわゆる『セックスフレンド』というものであった。付き合っているわけではないが体を重ね、かれこれ二年になる。そうなった経緯も今ではさっぱり覚えていないが、やはりこれもロクでもないきっかけであったに違いない。わたしたちにロクでもあることなどないのだ。

「ナマエ」

 カフェでコーヒーを飲んでいるとパクノダがやって来た。急いで残りのコーヒーを飲み干し、上着とバッグを持って彼女に駆け寄る。パクノダの体が少し動くのに合わせその大きな胸も少し揺れた。それに思わず目を奪われていると、行くわよという言葉に合わせ背中を向けられる。少し残念と思ってしまった。

「またフィンクスの相手?懲りないわね」
「あっちもよくわたしで満足するよね」
「ナマエと関係持ってから貴方としかしてないのよ」
「それ何回も聞いた」
「本当に驚いているの」

 人気のない路地裏に着くとパクノダはわたしを抱きかかえる。わたしはそれに別段驚きもせずに慣れた手つきで首に腕を回し、ぎゅっと縮こまった。すぐに風を切る音が聞こえる。
 フィンクスとする時、突然彼がわたしの家に押し掛けるか彼がわたしをアジトに呼び付けるかだった。アジトに行く許可は団長さんからもらっているし、何かわたしが不利益な情報を漏らしたりしたらすぐ殺すので大丈夫らしい。わたしは常にヒヤヒヤしながら生きているのだ。
 そして、彼は自分で迎えに来ない。大抵パクノダかマチに迎えに来させる。たまにシズク。男の人は来たことがない。一度だけシャルナークという人が興味本意で迎えに来ようとしたが、先にフィンクスがやって来てそのままわたしの家にUターンしたことがある。前に一度だけ何故自分が迎えに来ないのか聞いてみたら「なんかきめえだろ」と言っていた。確かに、わざわざ迎えに来てくれるフィンクスは気持ち悪いかもしれない。

「ありがとう」
「いいえ」

 パクノダのような体だったら、とか、パクノダみたいな綺麗な人が近くにいて不安、なんて思ったこともない。何故ならわたしはわたしで、パクノダはパクノダで、フィンクスはフィンクスで、そしてわたしとフィンクスは所詮セフレでしかないからだ。
 いつもの廊下を歩き一番奥の部屋に入る。そこにはベッドと必要最低限の生活必需品しか置かれていないフィンクスの部屋である。わたしの喘ぎ声がうるさいかもしれないからと旅団の皆さんの集まる場所から一番離れたところにフィンクスの部屋は移されたらしい。そのおかげか一度もうるさいと言われたことはないし、迎えに来る三人とフィンクス以外の旅団の人と会ったことがない。荷物を置いてベッドに座ると、すぐに扉が開いた。

「久しぶり」
「おう」

 フィンクスは常識人なので蝋燭垂らしたりお尻の穴にいれたりなんてアブノーマルなことはしない。普通のセックス、むしろラブラブセックスで、お互いにそれを楽しんでいるのではないだろうか。彼はわたしの挨拶に笑って短く返事をし、キスをして来た。

「いつ振りだっけ」
「二週間?くらい?」
「そんな経ってねえか」
「たまに週一だよ」

 もう一度キスをする。そのままゆっくり押し倒されてフィンクスがわたしの上に跨った。頬を撫でる手が首、胸と滑り落ちる。しばらく彼は胸を揉み、その手が胸から離れた時わたしは彼の肩を押した。

「なんだよ」
「赤ちゃんできたからしばらくセックスできない」
「は?」

今までで一番の間抜け顔をしてみせたフィンクスの間抜け声が三秒後、部屋中に響いた。





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