殺されかけたことはある。フィンクスに恨みを持っている人が、私を狙ったのだ。人生で一番恐ろしかったしホラー映画やパニック映画なんて足元にも及ばないと思っているが、痛みまでは経験しなかった。
 だから出産の痛みを、痛い痛いとは知っていたけれど、あんなに痛いとは思わなかった。私は陣痛が長く少なくとも安産とは言えず、こんなにも痛いのにまだ産まれないのかと気が遠くなったのをよく覚えている。

 男の子だった。強く産声を上げて、初めて会った時はさすがに泣いた。きっと産まれるまでつらかったのは私だけじゃなくて、この子も。お互いがんばったね。
 落ち着いた頃にやって来たフィンクスが抱いているのを見てまた泣いた。フィンクスはお疲れさんと言って頭を撫でてくれた。

 名前は団長さんが付けてくれて、やはりセンスがいいと思った。フィンクスの遺伝子をしっかりと受け継ぎ顔はそっくりだが眉毛もちゃんとある。もしかしたらフィンクスは日頃から剃っているだけなのかもしれない。今度聞いてみよう。

「どうですか、我が子は」

 フィンクスの腕の中でスヤスヤ眠る姿は天使にしか見えない。かわいくて仕方がないのだろう、さっきまで顔が緩みっぱなしだった。声をかけたらハッと引き締めていたけれど。

「うるせえ!さっさと痩せろデブ」
「本当最低…。顔はまだしも口悪いのは本気で似てほしくない…」

 人が気にしていることをよくもまあ軽々と言ってくれたな。しかしその通りなので早く痩せたい。子供というものは母のお腹にたくさん忘れ物をしていく生き物なのだと知った。





「母さん!飯!腹減った!」

 フィンクスがあまりよろしくない人間だと伝えるか伝えないか、伝えるとしたらどうやって伝えるか悩んでいたところ、それより先にフィンクス、マチ、シャルさんがおもしろがっていろいろ教え始めた。もちろんただの知識ではない。その内ノブナガさんもチャンバラごっこをしてくれたりウボォーさんが格闘技ごっこしてくれたり(ウボォーさんのはマジでシャレにならなかった)、スクスクと元気に育ってくれた。
 私の願いは叶わず口調はフィンクスのように育ってしまった。これは最早フィンクスだけのせいではない。

「げっ泥だらけ…、おかえり」
「おにいちゃんおかえり」
「ただいま」

 学校から帰るなり「修行して来る!」と飛び出したと思ったら汚れて帰って来ることが、日常茶飯事とは言え今は二歳の娘もいるものだから大変で仕方がない。この時ばかりは普通ではない父親であることを恨む。
 フィンクスは基本家にいない。息子を妊娠してからずっと同じように、仲間とのホームが彼にとっての家で、ここは第二の家である。だから一般家庭に比べたら会っていない方なのだが、修行と言って息子はいつもフィンクスに会っているらしい。フィンクスといるのなら安心だと私もいつも送り出している。

「父さん今日来るって」
「はーい」
「おとうさん!?」

 フィンクスが来ることをキャッキャッと喜ぶ娘によかったねえと声をかける。お父さん大好きなのは今の内で、きっと将来年頃になったらお父さん嫌いって言うんだろうな。そしたらフィンクスはどんな反応するんだろう。おもしろそう。
 ご飯支度を再開するとすぐにリビングが一層賑やかになった。見れば娘を高く抱き上げているフィンクスがいる。この満面の笑みをお仲間さんたちにも見せてあげたい。

「おかえり。みんなで一緒にお風呂入って来たら?」
「おう、そうする」

 娘を抱っこしたまま洗面所に行くフィンクスとそれに続く息子を見送った。あの子たちはフィンクスが決してよくはないことをしてるって知ってるのかなあ。今のところは変に育ってないから大丈夫かな。本当、妊娠した時はどうなることかと思ったけど、ここまで順調に育ってくれてよかった。生きる術をフィンクスなりに教えているみたいだし、いい父親にはなれていると思う。
 娘はまだ小さいから何もわかってないと思うけど、そういえばクロロさんが私に似てよかったなと笑っていたなあ。あの時のフィンクスもおもしろかった。
 ふふ、と一人で笑っていると、風呂場からも笑い声が響いて聞こえる。あ、三人のバスタオルと着替えを持って行かなきゃな。





/星と菫の追走(完)
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