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シキだって怒る

いつも通り騒がしい街を大股で歩くザップは、己の肩に陣取る柔らかな重みに悪態をつく。

ちょっとばかし報告書類を溜め込んでいた事が上司らにバレたのが運の尽き。「きっちり揃えて提出するまで給料は渡さないぜ?序でにこの案件も宜しく」なんて氷の副官に言われてしまっては首を縦に振るしかないではないか。
そして彼は監視として、シキにザップの付き添いを言い渡したのだった。

「シキ、お前も歩け!案外肩凝るんだぞコレ!」
「なーぅ」
「重いっつってんだこの引きこもり!動かなすぎてデブったんじゃねぇーのか!?」
「ふしゃあ!」
「いっってぇえ!!噛むこたねぇだろ!あだだだだだ爪立てるなバカ!!」

あまりの痛みに耐えかねたザップは、腕を伸ばしてシキの首根っこを掴んだ。ぷらんと身体を揺らしながらもなお、牙を剥く仔猫。

天下の往来で動物相手にキレるザップの姿は良く目立つ。誰もが何やってんだあいつ、薬でもキメてんのか、なんて笑う中で甲高い声が響いた。思わず喧嘩をやめた一人と一匹がそちらへ目を向ければ、派手な色の派手な服を着て、これまた派手な化粧をした人間型に近い形をした異界存在の女性がヒールを鳴らして駆けてくる。

「随分とご無沙汰じゃないのザップ!」
「えーっと‥‥ダハネ、だったか?」
「そうよ!アナタが全然お店に来てくれないからつまらないわ」
「あー‥‥」

あまりの香水の匂いにぴゃっとシキはザップの肩へ避難して、ぐりぐりと首筋に顔を埋めた。ザップもシキがどれ程香水の匂いが苦手が知っているし、なによりスティーブンから渡された仕事の最中であるので早々に切り上げたいというのが本心だった。

しかし、ダハネという女性は豊満な胸をザップの腕に押し付けて誘うことをやめない。どれだけアピールしても動じないザップに痺れを切らしてぐっと顔を近づけた際、漸く首元で縮こまる塊に気が付いた。

「あら?なぁに、これ」
「‥‥上司んところの猫だ」
「ねこ?ペット?」
「お、おう。‥‥あー!そう!今こいつの世話頼まれてるから、店行けねーわ!」

これはいい口実だとシキを腕に抱え直して“今は無理です”とアピールするザップ。シキからすれば匂いの元との距離が縮まってたまったものではないが、それで早く立ち去れるならと不満げな声を出して存在を示した。

じっとシキを見つめたダハネはふぅん、と面白くなさそうな顔をする。

「変な上司ね、仕事場にペットを連れてくるなんて。それに汚いグレイの体してるわこの子」

彼女はただ、靡かないザップに対する不満を、その理由を作り出した“上司”とその“ペット”にぶつけただけだった。それが本当にペット同伴で出勤する上司だったらよかったのだが。

「ふしゃあああ!!」
「きゃあ!?なによこれ!?」

ぶわりとダハネを中心に風が舞い、ザップの腕から強制的に離される。そして次の瞬間、鋭い音を立ててその体が引き裂かれた。

「シキっ、落ち着け!」
「ぅなぁあああ!!」
「落ち着けっての!おい!!」

烏天狗の力を用いて、完全に攻撃体制のシキ。その瞳は怒りに燃えている。何者にも変え難い存在“マエストロ”と“異なる種族の先祖返りである両親の子供の証の色”を貶されたのだ、当然のことだった。

ザップはシキの顔を手で覆い、視界から攻撃対象を消す。それから、事態に気が付いたポリスーツが近づいて来ていることを察知して、腕や太腿から血を流すダハネに「わりぃ!」と声を掛けると一目散にその場を後にした。



×××



「た、ただいま戻りました〜」
「おー。おかえり、ザップ、シキ」

へこへこと頭を下げて書類を差し出したザップ。受け取ったそれら一枚一枚を確認してから顔を上げたスティーブンはザップの肩で丸まっているシキに疑問を抱いた。
何時もなら褒めて褒めてと飛びついてくるはずなのに、と。

「シキ、どうしたんだい?」
「‥‥‥にぅ」

書類をデスクに置くと、ザップの肩から自身の腕の中にシキを移動させる。よろりと弱々しく揺れた尻尾に何かあったことを察し、ザップに有無を言わせぬ笑顔を向けた。

ザップがゴクリと喉を鳴らし冷や汗を流した時、ぽふんと音を立ててシキが変化を解いた。慌てて抱え直したスティーブンの首にシキが腕を回す。
もう一度、スティーブンが優しく同じ質問をシキに投げかけた。

「‥‥ごめんなさい」
「ん?シキは僕に謝らなきゃいけないような、悪いことをしたのか?」
「‥‥‥あのね、」
「うん」
「いっぱんじんに、こうげきしちゃった」
「それはどうしてだい?お前が理由もなくそんなことをしないだろう」
「マエストロのこと、へんだって。シキの色が、きたないって。いわれたの」
「‥‥‥」
「それでね、かっとなっちゃった」
「‥‥‥そうか」

スティーブンは目線だけでザップに退室を促すと、彼はこれ幸いと出て行った。その様子に呆れた様に息をついて、「シキ、」と呼び掛ける。

「いけないことだとちゃんと分かって、反省できるのはとても良いことだよ」
「‥‥‥」
「言いたい奴には言わせておけばいい。残念なことだが、全ての人に理解して貰える事でもないからね」
「マエストロはへんじゃないし、シキもきたなくない」
「ああ。僕も、勿論ライブラの連中も、それをちゃんと分かってる」
「‥‥うん」

ふにゃりと歪められた金と赤の瞳。
スティーブンはそんなシキの、鈍い輝きを放つ銀灰色の髪をくしゃりとかき混ぜた。


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