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スティーブンとお風呂

「こら、シキ。いい加減に腹をくくれ」
「やー!」
「やー、じゃない。約束したろ?」
「‥‥したけど‥‥やだ」

クッションを抱えてソファにへばりつくシキ。対するスティーブンは腰に手を当てて溜息を吐いた。毎度毎度、飽きもせずこれである。

「アヒル国王が待ってるぞ」
「まってない!」
「昨日はアヒル大佐がアヒル国王の裏切りを受けたところだったか?」
「‥‥‥ちがう。アヒルたいさのかのじょがさらわれたの」
「その続きをするんだろう?」
「‥‥‥ぅぐ」

あと一押し、とスティーブンは背に隠していた入浴剤ボールをシキの前でちらつかせた。シキの縦長の黒目がきゅっと細まって、手の平で転がるボールに釘付けになる。

「まさかそれは‥‥っ」
「そうだ。シキが気にしていた“はちみつの香り!あわ泡タイム”だよ」
「シキ、おふろはいる!」
「じゃあタオル持って、先に言っててくれ」
「はーい!」

シキは風呂が嫌いだ。いや、風呂だけではなく、水を浴びるという行為が好きではない。それはおそらく猫と烏の遺伝子が大きく影響しているのだと、スティーブンは推測している。(両方共諺ができるほど水浴びをしない生き物であるし)そのお陰で毎日今のようなやりとり繰り返しているという訳だ。
気分によっては自分から進んで風呂に僕を引きずって行くくせに。気分屋というのも猫の影響だろうか、なんて。

「(‥‥まあ、それを楽しんでいる自分もいるわけなんだけど)」

脱衣所から聞こえてくるアヒルと蜂蜜の音程のおかしい歌を聴きながら、シキと出会う前からの変化にそっと苦笑を零した。



×××



大きめの洗面器の中で、小さな毛玉が泡だらけになって目を細めている。時折喉元に手が触れればゴロゴロと鳴いて擦り寄ってきた。

「流すぞ、シキ」
「みゃぅー」

すっかり小綺麗になった銀灰色の毛玉が、洗面器に溜めた蜂蜜の香りがする湯に浸かって、ふぅ、と息を漏らした。風呂に入るまでは駄々をこねるくせに一度入ってしまえば実に大人しい。いくら猫や烏の影響があったとしても、そこは日本人らしく湯に浸かるのは好きなようだ。

スティーブンはさっと自身も頭と身体を洗い、ユニットバスに身を沈める。あー、と思わず出た声が風呂場に木霊した。シキと暮らすようになって始めた湯に浸かるという行為はなかなか良いもので、ジャパニーズの文化は心身共に優しいものが多いと感心している。

「にゃ、みー、に、なぅ」

ぷくぷくと湧く泡と仄かな香りがする湯を両手で掬って、ぱしゃりと湯船に還す。意味も無いその音とシキがアヒルのおもちゃと戯れる声だけが響く間抜けなほど穏やかな空間。
まさか自身がこんな時間を過ごすことになるとは、三年前には思いもしていなかった。

「逆上せるなよ、シキ」
「みゃあ!」

_17/21
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