今日は花火が上がるとテレビで言っていた。
最初から最後まで見たいからお風呂早く入る、という彼女に付き合って、俺も今日は珍しく早めに風呂に入る。
ほとんど乾ききっていない髪のまま、彼女はぺたぺたとベランダまで小走りで向かう。
「そんなに急がなくても花火は逃げませんよ。」
『逃げるもん!分かってないなぁ若はー』
「一生分からなくて結構です。」
『わ、冷たい』
そう言って空を見上げる彼女。
『さむ…』
小さな声だが、俺はそれを聞き逃さなかった。
「ほら、ちゃんと髪拭かないからですよ」
こんな事もあるかと持ってきておいたタオルで、彼女の髪を後ろからわしゃわしゃする。
『えへへ、ありがとう』
「風邪なんて引かれたら俺が困りますからね」
『うん、ごめんなさい』
そう言って彼女は俺の袖をつかむ。
これは抱きしめてほしい時の彼女のサインだ。
俺はそっと彼女の前に腕を回す。
彼女は俺の腕に顔をうずめる。
『花火、まだかなー』
子供みたいにぷっ、と膨れて空を見上げる。
「始まるまでまだ時間ありそうですね。」
『うーん。でもテレビでは、あと10分くらいで始まるって言ってもん』
「あと少しじゃないですか。もうちょっとですよ?」
そんな事を話してるとヒュー、と音が鳴った。
俺も彼女も顔を上げる。
さっきまで膨れっ面だった顔が嘘のように笑顔になる彼女。
わーきれい、とまた子供みたいになる。
『若?』
「ん?」
『きれいだね、花火。』
「…はい」
『…』
「来年は…」
『え?』
「来年は行きましょうね、花火大会。」
『うん!』
楽しみー、と笑った彼女の横顔は、様々な花火の色を浴びて、いつもよりきれいだった。
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初日吉
日吉は年上彼女が好きです
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花火