部活が終わり、着替えを終えた俺は部室を出る。するとそこには、いつものように俺を待つなまえがおった。俺に気付くとなまえは

「お疲れ様」

と、俺の大好きな笑顔を見せてくれる。
ほな帰ろか、となまえの手を取り歩き出そうとすると、急に後ろが騒がしくなった。なまえが振り返ったので俺も振り返る。

「部室の前でいちゃいちゃせんといてください。うざいっスわー」

財前がめっちゃ嫌な顔をして言う。

「ええやんか別に。幸せのお裾分けや」

俺は財前に言い返すが、財前は全く聞いてへん。
おい財前聞けやー、とか俺がわーわーしだすと、なまえが繋いでいた左手をちょっと引っ張る。
俺が振り向くと、ふくれた顔で俺を見るなまえがおる。

「謙也、お姫さんは不機嫌やで。財前と遊んどらんとはよ帰りやー」

珍しく白石が俺達を2人で帰らそうとしてくれる。
こんな珍しい事は滅多に無いから、今日は

「お言葉に甘えて帰らせてもらうわ」

と、みんなに別れを言い帰る。

なまえは帰っとる途中、同じ言葉を繰り返し言うとった。

「今日さー…、何でもない」

今日がどないしたんやろ…。何か特別な日やったかな。
なまえの謎の言葉以外はいつも通りで、俺達は他愛もない会話をしながら、いつの間にかなまえの家の近くまで来てた。
するとまたなまえが謎の言葉を言った。

「今日さー、」

「うん。」

「あの…今日ね、」「うん、今日がどないしたんや?」

そう言うとなまえが目を見開く。

「…え?だから、今日…」

「せやから今日がどないしてん?何かの日か?」

「…いあく」

「え?」

「最悪!!」

普段はそないに大きい声を出さへんなまえが、声を荒らげて言い放ち、俺と繋いでいた右手を振りはらう。
大股で自分の家に向かって歩いていくなまえの後ろ姿を見ながら俺は考えた。

なまえがここまでこだわる日…。きっと何かの記念日とか誕生日やろな…。
…誕生日?

…あ、そうや!!
今日はなまえの誕生日や!

「なまえ!!」

俺が叫ぶとなまえは一瞬びくっ、として俺の方を向いた。
俺は慌ててなまえの元へ走り。
振り向いたなまえは泣いていて、目は真っ赤、顔は涙でぐしゃぐしゃになっとった。

「ごめん、ホンマにごめん。彼女の誕生日忘れるとか…彼氏失格、やな。」

言いながら俺は泣いとった。

「もう…。何で謙也が泣いてんねん。ほらー、涙止まってもたやん。」

そして彼女はフフっ、と俺に笑顔を見せて、頭を撫でてくれた。

「もう泣かないの。私、謙也が泣いてんの嫌や。」

「そうか?」

「うん、笑って?」

俺は顔を上げなまえを見つめ、微笑む。
そしてなまえを抱きしめる。

「ちょ…謙也っ」

「何や?」

「…ううん、何でもない」

そうして彼女は俺の背中に手を回してくれる。

「なまえ?」

「うん?」

「誕生日、忘れててごめんな?」

「もうええよ、怒ってへん。」

「ほんまか?」

「ほんまや。私、嘘ついた事ないやろ?」

「…うん。」

「もー泣くなやー。ほんまにヘタレなんやからー」

「なっ!?」

ケラケラと笑う彼女。
俺はなまえから離れて、彼女の両肩をつかんで真剣に見つめる。
なまえも笑うのをやめて俺の方を向く。

「お誕生日、おめでとう!」

俺がそう言うと、なまえはいつもよりもっと眩しくて、幸せに満ちた笑顔を見せる。
その笑顔が可愛くて、俺は思わず彼女の唇にキスをする。
だんだん赤くなっていく彼女の顔。
こんな顔見れんのも彼氏の特権や。
俺は幸せもんやなー、とつくづく思う。

そして俺はもう一度なまえを抱きしめる。



***
おまけ


次の日…


「なまえちゃーん!昨日はちゃんとお祝い出来へんでごめんなー」

「小春ちゃん、ありがとう!その気持ちだけで十分やわー。小春ちゃん大好き!!」

「そら誕生日忘れて彼女より泣いてまう彼氏より、後でちゃんと祝ってくれる人のがええって事っスよね。」

「なっ!?お前ら見とったんか!!」

「先輩らが勝手に盛り上がっとっただけっスわ。」

「何やとー財前!!絶対許さへん!しばく!!」

「ちょっ、追いかけて来るとかどんだけウザいんスか」



(仲ええなーあの2人)(妬けるか、なまえ?)(白石うっざい)(…すまん)



誕生日とヘタレと俺の涙
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