「蔵ー!蔵りん、蔵りんってばー!」

「あー、もう何やねん!」

「…今日一緒に帰ろ?」

こいつはみょうじなまえ。
小学校からずっと一緒で、腐れ縁みたいな感じや。

「おん…。」

こいつが一緒に帰ろうて言う時は、大体俺に相談がある時。
最近は財前が気になってるらしく、彼女はおるか・どんな子が好みかとか色々聞いて来よる。
こんな事にはもう慣れたけど、イライラするもんはする。
何でかって、俺はなまえの事が好きやから。
そら、俺の事好きになってほしいけど、俺にはなまえを奪ったり出来へんし、好きな奴がおるんやったら応援する。
いつか俺の事を見てくれるようになるのを待つ事しか出来へん。
たまにこんな自分が堪らなく嫌になる。

―――放課後―――

「蔵っ!」

部活を終えて下駄箱の前で待っとると、同じく部活を終えたなまえが駆け寄って来た。

「ほな、帰ろか?」

「うん。」

何となく話をしながら帰っとると、お互いの家の近くの公園に着いた。

「ねぇ…ちょっと話せる?」

なまえが悲しそうな目をしながら言うもんやから、うんと頷く事しか出来へんかった。

公園のベンチに2人で座る。
座ったはええものの、なまえは黙ったままや。
何か話さな、と思い俺は口を開く。

「な、なぁ?財前とはどないなん?ちょっとは仲ようなれた…か!?」

俺が言い終わる前になまえは泣き出した。

「え!…なまえ?」

名前を呼ぶとこっちを向いて、少しずつ口を開いた。

「…れた。」

「え?」

「フラれた…」

「…えっ。」

「財前くん、好きな子おるんやって…。」

まさか。
なまえがフラれるのは予想外やった。
仲良かったし、大丈夫やと思とったんに…。
でもその反面、少し喜んでる俺がおる。
…最低や。
好きな子がフラれて喜んだらアカンはずやのに、誰よりもあいつの幸せを願ってあげなアカンはずやのに…。

「なまえ…」

「まぁ、しゃーないわ!あんな格好良い子に私なんか似合わへんし、好きな子やっておるはずやもんっ!」

無理に笑うなまえを見て胸が苦しくなる。

「笑うな」

「…え?」

「無理に笑うなや…」

ぎゅっとなまえの手を握る。

「蔵…」

「泣いたらええ。無理に笑わんでも、泣きたかったら泣いたらええ。」

俺が言うとぽろぽろと涙を流し、小さな子供の様に声をあげて泣いた。
俺はなまえが泣いてる間中、ずっと背中を擦ってやった。



「蔵、ありがとう。すっきりした!」

目を腫れぼったく赤くしたなまえは、吹っ切れた清々しい顔で笑った。

「お安い御用や!」

「うん!ほな、また明日。」

そう言ってくるっと向き直り歩き出す。

「なまえっ!」

歩き出したなまえの背中に声を掛ける。
こちらに向くなまえ。

"俺にしとけへん?"
そう言って抱きしめたかった。
けど、ほぼ幼なじみの俺達の関係を壊すのが怖い。
なまえに拒絶されるんが怖い。
そんな想いがぐるぐる頭の中を回ってたけど、今は言葉を飲み込んだ。

呼んだっきり黙ったままの俺を、なまえは首を傾げて見る。

「あぁ…、何でもあらへん。また明日な!」

笑顔を作って手を振る。
なまえも笑顔で応える。


あいつの気持ちが俺に向かわんのは分かっとる。
せやけど、いつかそんな日が来る。

家路につく彼女の背中にそっと想った。



もどかしい
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