今年の冬も
岩鳶にも冬が来た。
岩鳶は海辺の町なので冬は半端なく寒い。海から容赦なく風が吹いてくる。
俺たち、水泳部員が最も嫌いな季節。それ故 寒さにも弱いのだ。
「真琴、みかん。」
「ちょっと待って、剥いてあげる。」
ただいま七瀬家で温まっております、橘真琴です。
冬の寒い日、ハルの家のコタツでのんびりするのは毎年恒例の事。
うちにはコタツが無いから温かくて助かるし、何より、はると一緒にいれるのが嬉しいから毎日のようにお邪魔している。
「ハル、剥けたよ」
「ん…腕寒い。出したくない。」
「しょうがないなぁ…」
ハルは俺以上に寒がりだ。外出時、手袋・マフラーはもちろんのことヒートテックもかかせない。平日の朝、学校に行くのにコタツから引っ張り出すのに毎日苦労している。
今だってはるはコタツから頭しか出ていない状態だ。みかんを食べるのに手すらも出したくないらしい。まるで甲羅に閉じ籠ったカメのようだ。
そのため、俺が‘あーん’で食べさせるのも珍しくはない。
「ハル、あーん。」
「あー…」
あーん、 と口を開けるハル。
とても可愛い。
「美味しい?」
「ん」
むぐむぐ、と咀嚼するハル。
とても可愛い。
こうも可愛いとイタズラしたくなるのが、俺の本性。いや、誰でもなると思うが。
「もう1個食べる? あーん。」
「あー…」
一度ハルの口に入れようとしたみかんを俺の口にリリースする。
ベタなイタズラだ。
「みかん美味しいねー」
「………」
「ごめん、ハル怒んないでよー」
ハルは軽く頬っぺたを膨らましてプイ、とそっぽを向いてしまった。怒っているのも可愛い、なんて思ってしまう俺はかなり重症だ。
「はーるー…」
「悪いと思ってるなら、もう1個食べさせろ」
「ふふ、わかったよ。あーん。」
冬は寒くて嫌いだけどハルと一緒なら悪くないな、なんて思うのも毎年の事。
今年の冬も
(たまには鯖鍋するか…)
(え…?)