知りたくて、
(世界一初恋 高律)
丸川に入社して早3年。
同じ部署の上司兼、家がお隣さんの高野さんとは嫌でも毎日一緒にいるわけで。
10年前では気付かなかった高野さんの癖や性格(の悪さ)なんかが手に取るように理解できるようになってきた。
例えば、
「おはようございます。いい朝ですね。…御気分はどうですか?」
こうやって敬語で喋ってくるのは俺をからかっている証拠だ。
ニヤニヤと顔にうっすら笑みをうかべて、コーヒーをすすりながら俺の顔を覗き込んでくる高野さん……いや、変態。
え?上司を変態呼ばわりするのは失礼だって?
そこのあなた、今のこの状況を見てもそんなことが言えますか?
――高野さんの部屋のベッドで、素っ裸の俺。体には無数の赤い斑点。謎の腰の痛み。高野さんは妙にスッキリした表情をしている。
何度か同じような体験があったから、大体は予想出来るけど―。
いや、でも俺の勘違いかもしれないし。何と言ったって俺自身昨日の記憶が無い。下手に高野さんを問い詰められない状態なのだ。
そんな風にグルグル頭の中で考えていると、再び高野さんの声が降ってきた。
「…てめぇ、無視してんじゃねぇよ。気分はどうだって聞いてんだろ律。」
いつの間にコーヒーを飲み終わったのか、代わりに煙草をくわえている高野さん。その煙の臭いに顔をしかめながら高野さんの質問に答えるべく口を開いた。
「……あの、頭痛いんですけど」
「そりゃあ昨日あんだけ飲んでたからな。」
どうやら俺は昨日お酒を飲んだらしい。それもかなりの量を。それなら記憶が飛んでいることも納得できる。
それともう一つ、高野さんに聞かなければならない大事なことがあった。
「……あの、腰痛いんですけど」
「そりゃあ昨日あんだけ激しくヤったからな」
なるほど。どうやら俺は昨日高野さんと激しくヤったらしい。それならこの腰の痛みも納得できる。
「…って待てコラァァ!!何当たり前のようにヤったとか言ってんだよ!!」
上司とか関係なくタメ口で怒鳴り付ける。同時に、きれいな流れで思わず納得してしまった俺自身にノリツッコミ。
頭痛、腰痛を抱えた俺の渾身のノリツッコミは大阪人もビックリの出来映えだろう。
「てめぇから誘ってきたんだろーが。」
「誘っ!?…そんなこと絶対しません!!夢でも見てたんじゃないですか!?」
高野さんは俺に職場で"誘うな"とか、(無理矢理)ヤった後"お前が誘ったんだからな"とかほざく。
別に俺は誘ってるつもりなんて微塵もないし、高野さんを誘うなんてあり得ない。
だからいつも高野さんの言い訳には耳を傾けないのだか―。
「はっ!!そう言うと思ったぜ。…ほらみろ、証拠だ。ヤってるときの律の声録音した。」
高野さんは学習能力が高いらしい。(まぁやってることはただの変態なのだが。)鼻で笑いながら何の悪びれもなく懐からボイスレコーダーを出す。
俺はレコーダーに目にも止まらぬ速さで飛び付いた。腰が最高潮に痛いので動きたくなかったが、この人にこのレコーダーを持たせておいたら何をされるかわからない。
「ろろろ録音とか聞いてませんっ!!何やってんですか!!ド変態ですか…!!」
「昨日の律はめちゃくちゃ可愛かったぞ?…あ、まぁいつも可愛いけど」
一昔前のドラマの台詞のようなクサイ言葉をドヤ顔で言いながら、高野さんは何の迷いもなく…俺の話も聞かずにボイスレコーダーの再生ボタンを押した。
『……ま、政宗しゃん?あの、………ちゅーしてくらさい!!』
「だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
お酒のせいで呂律が回っていない状態でトンデモナイ台詞を吐いている昨日の俺。
高野さんのこと名前呼びだし、鼻にかかったような甘い声だし、積極的だし。性欲の沸点の低い高野さんならあの一言で確実に落ちたんだろう。
て言うか何この羞恥プレイ。
最初はリップ音だけだったのにだんだん喘ぎ声まで流れてるし。
何で自分の喘ぎ声なんか聞かないといけないんだよ。
「高野さん、止めて下さいっ!」
「……やだ」
「高野さ……」
あ
高野さん照れてる
最近わかった高野さんのクセ。
正直最中は高野さんに身を任せるのに必死で記憶があやふやだけれど、たまに俺が甘えてみたり良い雰囲気になったりすると高野さんは決まってこの顔をする。
眉をひそめて、眉間に皺がよった真剣そうな顔。初めて見たときは怒ってるのかって思った。だけどああ、照れ隠しか。そう気付くのに時間はかからなかった。
今も高野さんは例の険しい顔をしている。昨日の俺の姿を思い出して照れているのだろうか。
高野さんの意外な一面を見る度、俺だけしか知らない優越感と愛しさが生まれてきて。
「たか……政宗さん」
「…何、律」
「もう1回、シてほしいな…なんて。」
もっとあなたのことが知りたいって思っちゃうんです。
どうか繋がりあう身体から想いが全て伝わりますように。
そう願いながら俺はまた高野さんと身体を合わせた。
知りたくて、
(僕の全てをあなたに捧げる)
(あなたの全てを僕にください)