マコト先生と過ごす夏【前】
先生と付き合い始めて早2ヶ月。
季節はすっかり夏である。
今日から俺が待ち望んでいた水泳の授業が始まった。体育は今までサボりにサボっていたからここで挽回するつもりだ。
それに加えて張り切るポイントがもう一つある。
真琴先生が水泳の授業を見に来てくれているのだ。
「ハルくん、好きなスポーツとか無いの?」
「スポーツ…?」
「うん。ハルくん体育特にサボってるからスポーツ嫌いなのかな、って思ったんだけどそれにしてはイイ筋肉してるし……」
「……水泳。」
「ああ、水泳か。じゃあ、もうすぐ体育で泳げるねー。……あ、そうだ!せっかくだしハルくんの泳いでるとこ見に行くよ!!」
きっかけはこんな感じだった。
養護教諭と言えど忙しいだろうから見に来るなんてあまり期待していなかった。しかし真琴先生は約束通り来てくれたのだ。
"まだ気温、水温共に低いので事故が起こりやすいです。万が一に対応出来るように今回だけですが見学させてもらいます"
なんて最もらしい理由まで引っ提げてきて。
とにかくまあ約束を守ってくれた真琴先生に惚れ直したのは言うまでもないし、ガラにもなく張り切ってしまうのも事実だ。
…と言うのは数分前までの話。
今は、と言うもの。
絶賛イライラしながら、半ばヤケをおこしながら泳いでいる。
軽く体を解してプールに飛び込みサクサクっと50mを泳ぎ終わったときだった。
「ねぇねぇ、保健室の橘先生ってすっごいカッコよくない?」
「私も思った!カッコいいよねー」
耳に入った女子生徒の会話。
真琴先生のことだった。
確かに真琴先生はカッコいい。
色素の抜けたフワフワの髪に、チャームポイントの八の字眉毛。
そんな優しい印象の顔立ちとは裏腹に広い肩幅、厚い胸板。がっしりとした体格は男の俺からしても惚れ惚れする。
それに普段は白衣にスーツだが、今日は黒のTシャツに白のクロップドパンツと言うラフな格好をしている。
今日ばかりは女子が騒ぐのも無理ないかな、と納得しかけたとき。
「あ、橘先生が手振ってる!」
「きゃー、私たちに!?」
再び聞こえた女子の歓声に、反射的に真琴先生を見る。
真琴先生はニコニコしながら女子の方に向かって手を振っていた。
先生は俺を見にきたハズなのに。
やっぱり男の俺なんかと付き合うより女子の方がいいのだろうか。
嫉妬心と、不安、焦り、悲しみ。頭の中でを色々な感情が混ざりあって。上手く感情をコントロール出来なくなって。結果真琴先生を信用出来ない自分に物凄く腹が立って。
イライラしながら無我夢中で泳いでいる、と言うわけだ。
ジリジリと照りつける太陽の下。
程よい冷たさの水が俺を包む。
ああ、クソ。何でこんなに苦しいんだ。何でこんなに楽しくないんだ。水は心も身体も癒してくれるハズなのに。相変わらずもやもやもやもや頭を占める黒い感情。じくじくと痛む胸。
それらを振り払おうと、さらに加速させた。
***
マコト先生シリーズの番外編です
思いがけず長くなったので
前後編とさせていただきます!
バレンタインすっ飛ばして
プールとかどうかと思いましたが
…まあ深く追及しないで下さい。