5.あの日の約束を今






今日は日曜日。あまちゃん先生に急な用事が出来たらしいから、今日は部活がOFFだ。そんな休日、俺は部屋の片付けをしていた。

大きめのごみ袋に収められていく不要になった物たち。最初こそ何故、休日に片付けなんかをしなくちゃいけないのか不満に思っていたが、好きなバンドのCDをBGMに作業を進めていくうちに、何だか楽しくなってきたのだ。お陰でごみ袋はもう2つほど満杯になっている。着れなくなった服や、読まない本。使わない雑貨などクローゼットから山のように出てきた。


「よし、クローゼット終わり!!次は…タンスにしよ!!」


独り言を呟いて、鼻歌混じりにタンスへ取りかかる。引き出しの上の段から順に探っていくことにする。またしても不要になった物が出現してきた。それを見つけは捨て、見つけは捨てを繰り返しているうちに、引き出しの最下層、一番奥に見慣れない箱が有ることに気が付いた。まるで見付けられるのを待っていたかのように、独特の存在感を放っている。


「…なんだ、これ。」


不思議に思って箱を開ける。と、出てきたのはおもちゃの指輪だった。こんなもの、いつ買ったっけ。指輪を眺めながら考え込む。BGMで流れている曲の一番が終わり間奏に入る瞬間、それは急に思い出された。




『真琴、これやる。』

『なあにハルちゃん。…わぁ、キレイな指輪だあ!』

『真琴、指輪はな、好きな奴にあげるんだ。結婚するためにあげるんだ。』

『じゃあ、僕たち結婚するの?』

『ああ、でも18歳になるまで待たないといけないんだ。』

『そうなんだ…。 僕、18歳まで待つよ!!ハルちゃんと結婚したいもん!!』

『ああ、俺も待つ。だから、約束な、真琴』


指切りをして、おもちゃ屋さんか屋台で買ったような指輪をハルから受け取った。



フラッシュバックのように、当時の情景が頭に流れ込んでくる。懐かしい、幼かった俺たちの約束。もう十年以上も前の事なのに、指輪とあの頃の気持ちは今もそのままだった。いや、でも指輪を見付けるまであの約束のことは忘れていたから、ハルもきっと忘れてるんだろうなあ。

そう考えると、少し悲しい気持ちになった。ハル、俺は今でも、ハルと結婚したいくらい好きだよ。ハルはもう、そんなことないのかな。



「………あ、れ?」



ふと気が付くと、部屋に居たハズだったのがハルの家の前に立っていた。右手には、指輪が握られている。どうやら無意識に来てしまったらしい。どうしても、気になって仕形がないのだ。ハルがどう思っているのかが。


小刻みに震える手で、インターホンを鳴らす。数秒後、どたどたと廊下を歩く音がして家の主であるハルが顔を出した。


「真琴…! どうした?」


ハルは突然の俺の訪問に少し驚いているようだ。

俺はドクドクと煩く鳴る心臓を抑えて、話し出した。指輪を、ハルに見せながら。


「ハル…。これ、覚えてる?」

「……これはー…」




幼い頃の約束を鵜呑みに信じるほどバカじゃない。信憑性もないし、何より覚えていないことが多いだろう。でも、それなのに、期待している自分がいて。 指輪を見て、黙り込んでしまったハルに少なからずショックを覚えた。


「…っは、やっぱり、覚えてないよね!!それだったら、別にいいんだ。急に来てごめん、ハル」


その感情を隠すため、無理矢理に元気な声を出して弁解する。こうでもしないと、期待した恥ずかしさと、寂しさで泣いてしまいそうだったから。

そんな俺に対し、ハルはため息を一つ吐き、いつものように返してきた。


「…まだ何も言ってないだろ。」

「、え…?」

「真琴がまだそれ持ってるの、ビックリしただけだ。」

「…じゃあ、ハル……」

「あと一年くらい待てなかったのか?俺たち、まだ17歳だろ。」



ハルは、覚えていてくれたのだ。あの幼かった俺たちの約束を。



「ハル、俺と結婚してくれるの?」


涙まじりで尋ねた質問にハルは、


「当たり前だろ。」


そう答えた。




あの日の約束を今
(約束が叶うまで、もう少し)

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