4.近すぎて近付けない








パーソナルスペース。人が誰でも持っている、自分の体の周りにある、なわばりのようなもの。これで無意識に他人と距離を保っているらしい。

そんなもの、俺たちはとうの昔に捨ててしまったが。…いや、この言い方には語弊がある。真琴が勝手に、俺のパーソナルスペースに入ってくるのだ。それだけでない、人の気持ちを勝手に推測して心の中まで土足で踏み入れてくる。まあ俺の方も真琴のスペースにずかずか踏み入れるので人の事は言えないのだが。

それに、最近は悪くないと思うようになっている。思春期真っ只中の頃は、嫌で嫌で仕方なかった。が、今はと言うもの、パーソナルスペースに真琴が入ろうとも何も感じなくなった。いや、不思議な心地よさまで感じるようになったのだ。単に慣れかと思ったが、どうやら違うらしい。これは'もっと真琴と近くにいたい'と言う感情。



「……ふぁぁ、」

「眠いのか、真琴。」

「んー。そろそろ寝よ、ハル。」

「ああ。」


この感情を自覚してから、前より少し、距離を置くことにした。


「俺は布団敷くから、お前は俺のベッド使え。」

「ん、いつもごめんね?ありがと」


例えば、真琴が泊まりに来たとき。少し前までは居間でふたりくっついて雑魚寝したり、一緒にベッドに潜り込むこともあった。でも今は違う。真琴には俺のベッドを使わせ、俺は来客用の布団で寝ている。以前より、距離は広がっている状態だ。


「…前までくっついて寝てたのにね。なんか寂しいなぁー。」

「…っ、うるさい。電気消すぞ。」


真琴の一言に動かされそうな自分がいる。だって、しょうがないだろ。これは真琴のためなんだ。これ以上近づくと俺が我慢できなくなる。


もう眠ったのだろう。真琴の背中が規則正しいペースで上下している。今の俺には、手を伸ばしても届かないその背中を、眺めることしか出来ないんだ。




近すぎて近付けない
(これ以上近付いちゃいけない)
(理性が働く限界の距離。)

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -