3.初めての秘密
「よーっし!!じゃあ、いくよぉ?」
コロコロ。
目の前に転がるのはこんな廃屋に不釣り合いな―…サイコロ。
岩鳶高校水泳部は、合宿に来ていた。海での遠泳を主な練習メニューとして組み立てている。そんな合宿の矢先、俺たちは海の恐ろしさを学ぶこととなった。夜の海、襲ってくる大波。怜も俺も溺れてしまった。そしてハルと渚に助けられ、一夜を明かすためにこの廃屋、改め、好島レストハウスにいるのだ。
今俺が感じているのは、申し訳なさ。みんなを危険に巻き込んでしまって、ただただ申し訳なさでいっぱいだ。それと、恐怖。自分で言うのも何だが、デッカイ体格のくせに、小心者だ。いくらみんな一緒だからって、このレストハウスも怖い。
いつも笑顔を心がけている俺でも、さすがに現在ばかりは後悔やら恐怖やらで表情筋が固まってしまっている。
きっとそんな俺を気遣ってくれているんだろう。渚は場を盛り上げるため、サイコロを作ってサイコロトークを(勝手に)始めている。渚の順応能力に驚いている間に、転がっていたサイコロが止まったようだ。
「ハルちゃんだ!!」
「……俺か」
「テーマは…じゃあ、恋バナね!!」
話し手に選ばれたのは、ハル。お題は、恋バナ…。何とも不似合いと言うか、ハルが恋バナとか全く想像できない。これじゃあ、トークなんて出来ないんじゃあ。
「…わかった」
「えぇ!?」
「遙先輩、恋バナあるんですか?」
俺の予想は大ハズレで。ハルは話す気満々なようだ。…まさかこんなことになるとは思ってもいなかった。ハルの恋バナなんて聞いたことがない。それに、聞こうとも思わなかった。仮にハルに好きな人がいるとしたら、俺は―…
「俺の初恋の話をする。」
「…ハルちゃんの、初恋!!」
無情にも、話は進められていく。ハルの初恋の人。俺がハルを想い続けている間にハルはどんな人に恋をしたのだろう。俺にはハルの恋を邪魔する権利もないのに、心の中にある真っ黒な感情。嗚呼、これが嫉妬か。それがわかるのにそう時間は必要としなかった。
そして訪れた、話の結末は。
「あの美しい、滝……。」
「………あー。」
「……やっぱ、り。」
ハルの初恋は滝だった。度肝を抜かれるとはこのことだろう。真面目に聞いていた怜も渚もすっかり脱力してしまっている。俺は少し、ホッとした。
「ハルちゃんらしいよ…。もう、次いこ!!次!!れっつコロコロー」
コロコロ。
またしても転がるサイコロは、俺の名前をさして動きを止めた。
「……俺!?」
「まこちゃんだー!!あ、お題はまこちゃんも恋バナね!!」
「真琴先輩も恋バナあるんですか」
みんなが期待に満ちた目を向けてくる。心なしかハルもうきうきしながらこちらを見ているように感じた。
俺の恋バナなんて、公表出来るようなものはない。小学校高学年の頃、この気持ちに気づいた時から俺の眼中にはハルしかいない、なんて。言えやしないんだ。
だからこれは、
俺の最初で最後の秘密。
初めての秘密
(俺は好きな人いないよ。)
(えー、まこちゃんつまんない!!)