巻き戻してもう一度キスをしよう



アニメ6話ネタ。









地獄の夏合宿が終わってから、
ハルの俺を見る目が変わった気がした。

ときどき、遥か遠くを見つめるような、もの悲しい目でハルは俺を見るようになった。


「……ハル?」

「…、なんだ真琴。」


最初は俺が無意識にハルの傷つくことをしてハルを怒らせてしまったのかな、なんて考え込んだのだが、どうやら違うらしい。話し掛けても不機嫌な様子はないし、普通に話してくれるからだ。

それともう一つ。スキンシップが多くなったからだ。ハルは不機嫌な時ほど俺から離れるし、通常時でもスキンシップは少ない方だ。そんなハルが、これまたときどき、俺に触ってくるようになった。それも、壊れ物を扱うような優しい手付きで。

不思議は多くなるばかりで。ハルの行動の理由を知りたくてたまらなかった。


「ハル、最近元気ないみたいだけど…何かあったの?」


俺が尋ねると、ハルは一瞬驚いたような顔をし、またあの悲しそうな顔をしてうつ向いた。そして、俺の手を握ってポツポツと話し始めた。


「……あの時、怜と真琴が溺れたときから…時々怖くて堪らなくなるんだ。無我夢中で陸まで引き上げて、真琴を見ると呼吸が凄く弱かった。このまま、真琴が死んじゃうんじゃないかって。お前がいる生活が当たり前だから…俺はお前がいなくなったら、おかしくなると思う。そんなことを考えると、凄く怖くなるんだ…」


ハルが話したのはあの夜のこと。俺が不本意にも溺れてしまったときのことだ。あの時の記憶はほとんど無く、詳しく聞いたのはこれが初めてだった。

普段感情をおおっぴらに出さないハルが震えながら話す姿に胸を痛めつけられた。いや、本当に辛かったのはハルなんだ。


「ごめんハル、辛い思いさせて…」



「…人工呼吸を、しようと思ったんだ。」

「………人工呼吸?」


少し間をおいて、ハルが顔をあげて語り出す。

「もちろん、真琴の呼吸が弱かったから。助けようと思った。」

「…そうなんだ、ありがとう。」

「でも、今思うと…真琴と触れていたかった。真琴の一番そばにいたかった。真琴とキスがしたかった。死んでしまう前に、何か証が欲しかったんだ。そんな不純な理由なんだ。」

「ハ、ル…」

「…まあ、不発で終わったんだけどな。」


ハルが自分の思いを珍しく饒舌に語った。そしてそれが全て言い終わると、フ、と微笑んで再び俺から目を逸らす。俺はどうすることも出来ず、ただハルを眺めていた。



そして何分くらいそうしていたのだろうか。ふと、ハルが口を開いた。



「真琴、キスをしよう。」

「………っへ!?」

「あの時出来なかったしな。」


発せられた言葉は予想の遥か上を行くものだった。まぬけな声が出てしまうほどだ。

「ハル…。」

「ほら、早くしろよ。」

「う…わかった、わかったから目ぇつむって!!」


ハルが何故いきなりこんなことを言い出したかはわかる。だから俺は、優しくハルの頬を手で包み、夕日を背にして俺の誓いを込めたキスをした。




巻き戻してもう一度キスをしよう
(人工呼吸なんかじゃない、誓いのキスを)
(こんな思いはもうさせない。ずっと離さないよ、ハル。)


title by 確かに恋だった

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