君が異性に変わってゆく
俺は成人向け雑誌―…要するにエロ本と言うものを見たことがなかった。クラスで男どもが固まってエロ本だのそういう行為だのの話をしているのは聞いたことがあるが、まったく興味が湧かなかった。もちろん、一般常識程度に物事は知っているし、必要な時は自分で致すが。
初恋は小学生の頃、家族で行った旅行先の山奥で見つけた滝だった。中学生くらいになって、水は心も身体も癒してくれる。だから性欲も水で処理出来るものだ、とも考えたほど性欲に関しては疎かった。
いつものように、真琴の家に遊びに行って部屋でゲームをしていた。
「んーっ、疲れたぁ。ちょっと休憩しよ、ハル。飲み物とってくるよ。」
「ああ。」
二人共熱中し過ぎてゲームを始めてから、かれこれ2時間はたっていた。そりゃあ疲れるはずだ。ふー、と長く息を吐いて、俺はまるで自分の部屋のように寝転がった。
「……ん?」
そんなとき。ふと、真琴のベッドの下に何かが落ちているのに気が付いた。本のような形状をしているようだ。
「なんだ、これ……」
興味本意に引っ張り出して見てみる。目に入ったそれは、まさしく見たことのない景色だった。艶やかな黒髪に、ふくよかな胸。面積の少ない布が、かろうじてその女性の大事な部分を隠している。ペラペラ、とさらにページを進めると相変わらず淫らな格好をした女性の写真が載せられていた。一通り見て、ようやく理解する。ああ、これがエロ本か。
「ハル、おまたせー……って、ハル!?なななな何見てるのっ!?」
俺が理解したと同時に真琴が帰ってくる。真琴は手に抱えていたジュースやらお菓子やらを放り投げて俺の手からエロ本を奪った。
「…何って、エロ本だろ?お前の」
「お前のって強調しなくていいよ!!…うぅ、まさかハルにバレるとは…」
真琴があからさまに肩を落とす。こころなしか、元気がなく垂れ下がった犬の耳が付いているように見えた。
しかし、今そんなことはどうでもいい。とにかく気になることがあった。
「…お前、そんなの見てヤるのか。」
「……まあ、健全な男子高校生だからね。」
真琴が照れたように微笑みながら肯定の意を発する。真琴の言ったことは理解が出来た。健全な男子高校生がエロ本を見て楽しむのは当たり前だし、そういうのに興味のない自分がおかしいのも自負していた。ただ、てっきり真琴も俺みたいに興味がないと勝手に思い込んでいた。それは自分の勝手な想像に過ぎないのだか、なんとなく裏切られた気がして、少しショックだった。
いや、違う。それだけではない。俺はもう、心の奥に潜む本当の気持ちに気がついていた。俺の性欲に対する淡白さも、この感情で説明がつく。
真琴が、好きだ。
学校やクラスの可愛い女子や、整った体型のグラビアなんてどうでもよかった。目もくれないとは、こう言うことだろう。ただ、真琴が好きなのだ。
君が異性に変わってゆく
(真琴が愛しくて、たまらない。)