気まぐれネコのテリトリー
嫉妬ハルちゃん
ハルはイルカみたいだ。
ハルの泳ぎはあの怜が絶賛するほど綺麗で、まるで雄大な海を美しく、優雅に泳いでみせるイルカみたいだ。
ハルはネコみたいだ。
生まれたころからの付き合いの俺でも時々予想できない気まぐれな言動をする(特に鯖と水が絡んでくるとまったく予想不能になる)。それにプールに入っているのに痛むことを知らない艶やかな髪は育ちのいい黒ネコを想像させる。
俺はイルカのハルもネコのハルも好きだ。もちろん、普通の(普通がどんな感じかは聞かないで欲しい)ハルも好きだ。が綺麗に泳ぐハルも気まぐれなハルもいとおしく思える、と言うことだ。
説明が長くなったが、現在のハルはどのハルかと言うと…
「……ハ、ハル?」
「………。」
ネコのハルだ。
部活が終わって明日は珍しく部活が無いものだから、ハルの家に泊まらして貰うことになっていたので学校からハルの家に直帰した。いつものように順番にお風呂に入って、夕御飯(言うまでもないが鯖)を食べて、さあこれから何をしよう、って時にだ。いきなりハルがあぐらをかいて座っている俺の上に乗り上げて来たのだ。そして頭を俺の胸元に埋めてグリグリと動かしている。まるでネコが甘えてきているような仕草だ。
「…ハル、今日は積極的だね。」
「………」
「ハール、返事くらいしてよぉ」
さっきからこの調子だ。本当に気まぐれネコみたいなハル。ハルが甘えてくるのは珍しいし可愛いし嬉しいからいいんだけど、俺の理性が崖っぷちな訳で…。
俺が葛藤しているとき、ようやくハルがポツリと呟いた。
「…こうしていると、安心する。温かくて、気持ちいい。」
「…ハル?何かあったの?」
ハルが言った台詞があまりにも珍しいもので何かあったのかと思い俺はハルに尋ねた。
「…ここは、俺の場所だ。」
「……え、」
「誰にも、譲るつもりは無い。」
「あ、もしかして…………ハル、ヤキモチ焼いてたの?」
「……」
今日部活でタイムトライアルをやっていたときのこと。渚が久しぶりに好タイムを出した。
「渚!今の泳ぎすっごい良かったよ!!」
「ほんと!?うわ、タイム上がってる!!やったー、まこちゃん!!」
そう言って渚は嬉しそうに俺の胸に飛び込んできたのだ。
俺は渚恒例のスキンシップだと思っていたが、ハルにとっては嫉妬の理由になる行為だったかもしれない。今日、いつもにも増して静かだったのはそのせいだったんだね、ハル。
「ここは」
「ん?」
「ここは、真琴は、俺のものだよな?」
ハルが埋めていた顔を上げる。必然と上目遣いになるわけで。何てあざといんだハルは。俺はにやけそうになる顔を必死でこらえた。
「俺はハルだけのものだよ。…ハルも、俺だけのものだ。」
「……ん、なら、いい。」
ハルは俺の答えに満足したのか再び顔を胸元に埋めていた。