やさしさ








「真琴、今週の日曜日…暇か?」

「…え、うん、何も予定ないよ」

「水族館行くぞ!」

「…え?」

「渚からチケット貰ったんだ。…行かないのか?」

「…っ、行く!」



ハルと恋人同士になって早一ヶ月半。お互い部活もあったし、デートらしいデートが出来なかった。
それがだ。ハルから唐突に水族館に誘われたのだ。これは俺たちの初デートになる。

張り切らない訳がなかった。


「すっごい楽しみだね!ハル!」

「…ああ。」

普段感情をあまり表に出さない
ハルもめずらしく楽しそうだし。
日曜日が待ち遠しいなぁ…





そして、あっという間に日曜日。

朝起きてふと気づく。あれだけ楽しみにしていたのに、いまいち気分が乗らないのだ。

「…なんで、だろ。」

けどまあ、ずっと寝ているわけにはいかない。ハルとの待ち合わせ時間がせまっているし、早く用意しなければいけない。

俺はなんとなくダルイ体を起こして動き始めた。



自分の体の異変に気付いたのは
水族館についたころだった。


「ハル、何か今日寒いね…」

「そうか?ポカポカしてる。」

「…あれ?」

襲ってきた寒気に首をかしげる。



「真琴、手。」

「手?」

「手、つなごう。」

「うっ、うん!」

珍しく積極的なハルからの指摘。

「真琴、手熱い…」

「そうかなあ?」

寒気がするくせに火照ってくる顔と手。ハルと手をつないでいるからかと思ったが違う…気がする。



「鯖が、いっぱい…」

「食べられないよ、ハル」

「鯖…サバ…さば…」

「ふふっ……、っ」

急に感じた頭痛に、息を詰まらせる。ここでようやく理解した。ああ、風邪ひいちゃったんだ…。



「…真琴?」

「っ、ごめん、ボーっとしてた」

「イルカショー行かないか?」

「うん!行きたいっ!!」


せっかくのハルとの初デートだし、ハルに心配かけるわけにはいかない。なんとか隠し通そう。

正直立っているのはしんどかったのでイルカショーはタイミングがよかった。ショーの観覧は座って出来るハズだ。少し休めば、楽になるだろう。



「…水、真琴、水…!」

「ハル、脱いじゃダメ!」

「……」

「そんな顔してもダメ!」


ショーが行われる会場につく。真ん中辺りの見えやすい場所に席をとって、二人並んで腰をおろした。イルカショーなので、もちろん会場には大きいプールがある。ハルは泳ぎたくて仕方ない様子だ。流石に勘弁してほしいが。

観客の拍手と共にショーが始まる。ハルは泳げないにしても跳ねるイルカを見て楽しんでいるようだ。このまま、ハルが楽しんでくれたらいいな…







「…い、おい真琴、真琴っ」

「……んー、ハル?」


頭に響くハルの声。なんだ、と思ったがどうやら俺は寝ていたらしい。頭がぼんやりして、思考がうまく働かないが、とんでもないことをしてしまった、と言うことはわかった。せっかくの初デートなのに。

「ハル、ごめん!ほんとごめん!」

「…もう帰ろう。今日、無理に連れてきて悪かった」

「…っ、ハル、違っ…」


ハルは大きなため息を一つ吐き、俺に背を向けて歩き出す。そりゃそうだ。デート中に寝るなんて失礼なことをした。ハルが怒るのは当然だ。

ハルに謝らないといけない。
俺は立ち上がってハルを追いかけようとした、のだが。


「……っう、」

「 真琴っ!?」



立ちくらみ。
なんてタイミングが悪いんだか。頭がグワングワン揺れてる感じがして、立ってられなくなった。目をつむっているのに、視界が回っている気がして気分がわるい。俺はその場にしゃがみ込んだ。


「おい、大丈夫か!?」

「…ごめ、だいじょ、ぶ…」


先を歩いていたハルが異変に気付いたのか、慌てて引き返してくる。ハルの問いかけに懸命に答えようとするも、言葉が続かない。そんな俺を見て、ハルは又してもハア、とため息を吐いて俺の額に手を当ててきた。


「…やっぱり熱い。体調悪いんだろ、真琴。」

「うぅ、ごめん…」

「だから帰ろうって言ったんだ。」

「…え、ハル、怒ったんじゃないの?」

「俺はこんなことで怒らない。」

キッパリ言うハル。ハルのこういうとこ、すごく好きだ。


「ごめんね、ハル…」

「ほら、帰るぞ。立てるか?」


差し出されたハルの手。ハルをプールから引き上げる時みたいだと思った。今日は立場が逆なので変な感じがするが。

今日のデートは俺のせいで散々だったけど、ハルの優しさをまた一つ知れたからいいかな、って思ったりした。



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