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  5.


「すっごーい!!超きれい!!」

目の前に広がる光景に私のテンションは最高潮を迎えていた。暗闇の中に、花の桃色と提灯の赤色。私たちは、今花見に来ている。
というのも数日前、近藤さんからこんな提案があったのだ。

「最近、みんな隊務を全うしてくれているし、ここは一つ。花見でもして労わろうじゃないか」

そういうわけで、京の花見の名所に来ている。
偶然にも屯所から近い場所にあり、少しの間だけなら留守にしても大丈夫だろうということで幹部隊士が勢ぞろいだ。もし何かあったときは、留守番をしている隊士が駆けつけてくることになっている。最も、お酒が入った状態で本来の力が発揮できるとも思えないが・・・。
私と千鶴は隊士ではないが、日頃よく働いてくれているという近藤さんの一存で、一緒に参加させてもらうことになった。

「よーし。宴会だー!宴会!今日は飲むぞー!!」

おー!と平助と新八さんが意気込んでいる。割といつでも飲んでいるが、それは黙っておくことにした。その隣で左之さんが、潰れんじゃねぇぞと眉を下げて笑う。近藤さんも、沖田さんにお酌されながら、存分に飲め飲めと楽しそうな表情だ。斎藤さんは源さんと2人で静かに、でも穏やかに談笑しながら飲んでいた。土方さんは眉間にしわを寄せながら周囲を見渡している。その様子が少し気になって、土方さんに声をかけた。

「あの、土方さん。どうかしました?」

ちらっと私の方を見たが、その視線はまたすぐに別の方に行く。相変わらず眉間にはしわが寄っている。

「いや、俺たちみたいに宴会だ何だと騒いでいる不逞浪士連中がいねぇかと思ってよ」

こんなときまで新選組の仕事をする彼は、何というか、本当に新選組のために生きている人なんだなあと実感する。少しは息抜きというのを覚えてほしい。

「でも、せっかくの花見なんですし、もうちょっと気を緩めても・・・」

もう少し肩の力を抜いても罰は当たらないだろうと思って、そう言ってみたものの、彼の表情は変わらず、

「勝手に楽しんでろ。俺は怪しい奴がいねえか見とくぜ」

と、ピシャッと断られてしまった。
この人の隣ではせっかくの花見も台無しだな・・・。失礼かもしれないけど、場所を移動することにした。

「隣、失礼しまーす」

そう言って座ったのは、平助のところだった。もちろん平助の周りには左之さんや新八さんもいる。ここなら、私も楽しくお酒が飲めそう。

「おう!れん!飲んでるか?」

そう言いながら平助は、私へおちょこを差し出す。まだ全然飲んでないよ、と答えながらそれを受け取り、平助にお酌してもらう。
遺伝のせいなのか、私自身お酒は弱い方ではない。どんな種類でも飲めるし、悪酔いもしない。こういう宴会の場に参加する度、お酒が飲める質で良かったと心底思う。
平助が並々と注いでくれたお酒をこぼさないように口元へ運び、一気に飲み干す。

「おーいい飲みっぷり。ほら、もう一杯ついでやるよ」
「ありがと、左之さん」

こうやってみんなとお酒を飲んで、わいわい楽しく過ごすことができるなんて。画面越しに見ていたあの頃では考えられない。
彼らは自分の命をかけて生きている。武士という生き方を自分で選んだのだ。その、いつ散るかも分からない桜のような儚い生き方に、私は、未来の人々は魅了されたのだ。その生き方が正しいとか間違っているとかは思わない。けれど、いつ死んでしまうのか分からない彼らとこうして出会えて、時を共にしているのは、何か意味があるからなのではないだろうか。
――そう、例えば、彼らのこれからを変える、とか。

「・・ぃ。・・・おい・・・聞いてるか・・・れん!」
「っは、はい!」

考え事に夢中になり、ぼーっとしていたのだろう。平助が私を何度も呼んでいたことに全く気が付かなかった。

「どうしたんだよ、考え事か?」
「いやーあはは。何でもない」

愛想笑いをして、適当に話をごまかす。
一体自分はなんてことを考えていたんだろう。未来を変えるだなんて。そんなとんでもない。そんなことしたら、本当に歴史が変わってしまうかもしれない。そんな大それたこと、私にはできないし、そんな権利もない。というか、歴史を変えるなんて、もし仮にできたとしても、してはいけないことだろう。もうこのことを考えるのはやめよう。

それから、私は彼らと一緒に花見を楽しんだ。新八さんや近藤さんが芸を披露すれば、場は大盛り上がり。最初は眉間にしわを寄せていた土方さんも、今は頬をゆるめ、楽しそうに過ごしている。桜の花もきれいに咲いていて、時折吹く風に花びらが舞う。本当に彼らは街の人から恐れられている新選組なのかと疑うような、終始和やかな雰囲気だった。
楽しい雰囲気のまま屯所へ戻ると、ある人物に声をかけられた。

「おや。こんな時間まで飲んでいたのですか。本当に試衛館の方たちは仲がよろしいんですね」

伊東甲子太郎だ。
ほほほ、とでも文字に表せそうな笑い声を出しながら、彼は自室へと戻っていった。
普通に聞けば、何も感じない言葉だが、彼の発する言葉には嫌味というか棘のようなものが含まれている。皮肉なのだろう。礼儀正しいというかお上品な出で立ちだが、策士なことは確かだ。頭が切れるのも事実。端から見れば、伊東さんは新選組にとって有用な人材だ。けど、私は彼のことを好きにはなれない。なぜなら、彼が新選組を分断させる起爆剤であるから。彼は参謀だから、立場上従ってはいるが、心から服従する気はさらさらない。

「ほんと、気に食わねぇ野郎だぜ」

新八さんが隣でボソッと呟いた。私はその呟きを聞き逃さなかった。私だけではない。近くにいた平助も聞いていたのだろう。彼の顔は複雑そうな表情だった。

自室に戻って寝支度を整え、布団に入ったが、なかなか寝付けなかった。頭によぎるのは、さっき見た複雑そうな平助の顔。多分だけど、彼は伊東さんのことでいろいろ悩んでいるのだろう。近藤さんは伊東さんの博識と剣の腕を買っているから、良く接しているが、幹部は伊東さんのことを良く思っていない人が多い。だから、伊東さんが同じ空間にいるのといないのとでは、みんなの雰囲気が違う。私が感じるくらいだから、平助はもっと感じているはず。彼は、連れてきた責任を感じているかもしれない。明日にでも、相談に乗ってやれないかな・・・。
あれこれ考えているうちに、瞼が重くなり、いつの間にか夢の中へと入っていた。


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