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  4.


1月。私がここに来てから、もうすぐ半年が経とうとしていた。私は幹部からの命を忠実に守っていた。その甲斐あってか、私が間者だと言う人ももうおらず、ただの記憶喪失の人間で通っていた。記憶喪失だから、何か思い出さないかと頻繁に聞かれたが、何も思い出さないと答えていた。思い出すものは何もないのだから。
先月くらいから、幹部隊士と一緒ではあるが、少しずつ街に出られるようになった。以前も記憶を取り戻すためだとか言って、数回街に出たことがあったが、あのときと状況はまるで違う。今は買い物してもいいし、団子屋に寄ってもいい。最高すぎる。今日も非番の隊士を見つけて、街へ繰り出すことを考えていた。
誰かいないかなと屯所の中を歩いていると、新八さんと平助の姿を見つけた。

「新八さん、平助。今日非番?非番ならちょっと街へ行こうよ」
「おう、れんちゃん。いいぜ。俺らも暇してたところだしよ」
「行こう行こう!」

話はすぐにまとまり、3人で街へと繰り出した。冬とはいえ、太陽が照ってぽかぽか陽気の今日は、人の往来が激しかった。屯所の中では味わえないこの賑やかで楽しい雰囲気に、私の心は浮足立っていた。

「あ・・・これ可愛い」

ふと目に留まったのは、古風な飾りがついたかんざしだった。現世にいた頃からかんざしが好きで、お店で見つけてはよく見ていた。付け方がよく分からず、買ったことはなかったけれど。可愛いかんざしを眺めていると、店主の人が話しかけてきた。

「おう、兄ちゃん。お目が高いねえ。それは、つい最近売り出した新商品さ。好いた女に買ってやったらどうだ?」
「へ?・・・あ!いや!あの・・・!」

そうだった。今私は男なんだ・・・!いつも男装してるけど、屯所の中では男扱いされることも少ないから、つい忘れていた。完全に女目線でかんざしを見ていた自分に慌てふためいた。すると、後ろから2人が助け船を出してくれた。

「へぇ。こりゃ可愛いかんざしだ。けど、お前、買える金ねぇだろ?」
「そうそう。それに、あげる相手もいねーじゃん」

悪いな、また今度と言いながら、私の腕をつかんで2人は歩き出した。
そのまま黙って河川敷の方まで歩いていくと、急に新八さんが肩を震わせ始めた。不審に思って見ていると、ぷっと噴き出し笑い始めた。それにつられたかのように、平助もお腹を抱えて笑い出した。

「え?何?なんでそんなに笑ってるの?」

状況が読めない私は困った様子で尋ねた。

「いや、だってお前・・・!完全に自分の性別忘れてただろ・・・!」
「いやーあの慌てた様子、傑作だったぜ!他の連中にも見せてやりてぇ!」

あっはっはと大笑いする2人に、私は、そんなに笑わなくてもいいのに、と顔を膨らませた。つーんと顔を背けた私に、ごめんごめんと平謝りする2人だが、知らない振りをした。

「もう!・・・ん?」

背けた目線の先に、私は何かを見つけた。看板のようなものだ。何が書いてあるのか気になって、その看板のところまで行ってみた。2人も私の後を追ってくる。

「どうした?れん」
「いや・・・何が書いてあるのかなーって気になってさ」
「ああ、これか。これは、禁門の変以降、幕府が長州藩に向けて出した制札さ。長州藩は幕府の朝敵だっていう内容が書いてあるんだよ」

新八さんが真面目な顔で説明してくれる。彼は意外と政治に詳しくて、普段からもよくそういった話をしてくれる。制札という言葉を聞いて、私の中にある事件の名が浮かんだ。

「・・・三条制札事件」
「ん?三条の制札がどうしたって?」

新八さんが不思議そうに聞いてきた。

「えっ!?いや、なんでもない!それよりさ、この札って抜かれたりしないの?」
「抜く!?さすがにそんなことしたら、捕まるし、捕まった後もただじゃ済まないんじゃないか?」

私の発想に平助が驚きの声を上げ、呆れたように答えた。それに同意するように新八さんが頷く。

「幕府の制札を抜くなんて馬鹿な真似、誰もしねぇだろ」
「・・・そっか」

私の記憶が正しければ、それが起こるんだよな。でも、下手なこと言って私の正体がバレても困るから、それ以上は何も言わなかった。
そのあと、私たちは団子屋でお団子を食べてから屯所に帰った。



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