シガロネ | ナノ




もう立春は過ぎたから暦上は春だけど、2月なんてまだまだ真冬だ。びゅーびゅーと吹雪くシロガネ山。
こんな時でも半袖であろう馬鹿を思い浮かべて、心の中でたまには下山して私を待ってろ、と悪態をつく。
しかもこの吹雪じゃあピジョットに乗せてもらうわけにはいかない。地道にシロガネ山を登るしかないか。もう日が暮れそうだ。

モンスターボールからプクリンを出して頂上を目指して歩き出す。

暫くして向こうから黄色い生き物が近づいてきた。この山に黄色といえばレッドのピカチュウしかいないんだけど…。
すると私のプクリンも向こうへ駆けていった。近くに来た黄色は赤い頬袋を持っていて、やっぱりピカチュウで、プクリンと手を取り合って挨拶を交わしていた。
ここにピカチュウがいるということ。
きょろきょろと辺りを見渡す。すると案の定赤を見つかった。


「レッド」


名前を呼べば赤い瞳が私を捉える。


「チョコ」

「…は?」

「今日バレンタインでしょ、この間グリーンが言ってた」


片手を出して催促するポケモン馬鹿。


「だからチョコ頂戴」


以前グリーンと私でレッドの誕生日をサプライズで祝ってやろうという事になった時、レッドに何も言わずにプレゼントを渡したところ「今日、何かあるの」と平然と言ってのけたのはまだ記憶に新しい。

自分の誕生日は忘れたのにこういうことは覚えているのか。


「だめ?」


私が何も言わなかったのをチョコを渡すのを渋っていると思ったのか、こてんと首を横に倒して、だめ押し。
いつから悪タイプの技を拾得したんだ。


「駄目じゃ、ないけど」


私はレッドのこの仕草に滅法弱い。
それに今日は用意したチョコを渡すためにここまで来たんだから、渡さなければ意味がない。
ショルダーバッグから箱を出し、レッドの手の上に乗せてやる。


「はい、チョコレート」

「ん、ありがとう」


遠慮なく包みを開いて、中からフォンダンショコラを取り出すレッド。
それから一口囓ってから、口角を僅かに持ち上げて微笑んだのでどうやら口に合った様子で安心した。


「ところで、」


この後ほっと胸を撫で下ろしていた私はレッドからの思わぬ追撃に合うことになる。





「これ、勿論本命だよね?」