その日の夜。
暗い夜道でわたくしは一人ミンク様に渡された紙片を手に歩いております。紙面には綺麗な字で住所が書かれていました。クダリには仕事で遅くなりそうだから先に帰るように言い職員が帰ったのを見計らい、現在に至ります。

書かれた住所を頼りに暫く歩くとマンションにたどり着きました。
オートロックのマンション。とても家賃の値が張りそうなマンションでございます。
わたくしはエントランスに設置されている玄関インターホンに部屋番号を押して家主の応答を待ちました。


「はい」

「ノボリです」

「ふふっ、待ってましたよ。今開けるので上がって来て下さい」


インターホン越しに聞こえてきたのはミンク様の声で少し安心した。ミンク様は紙片を渡す時、なにも仰らなかったのでこれが何の住所なのかわからなくて不安だったのです。

ロックが外されて開いたドアから中に入りエレベーターに乗る。
ミンク様はわたくしを呼び出して一体どうしたいのでしょうか。ですがわたくしもミンク様に聞きたいことがあります。

問題の階層に着いたようでエレベーターが止まる。降りてみるとすぐの所にミンク様の家はありました。


「いらっしゃい」


わたくしがドアの前に立ったのがわかったかのような絶妙なタイミングで開かれ、迎え入れられる。


「お邪魔致します」


靴を脱ぎ上がらせて頂くと良い匂いが香って参りました。ミンク様の香りでございます。いつもミンク様はここに帰宅し、食事をして、入浴して、寝て…。そんな事を考えている自分は本当に下等な人間だという事思いながらも、少しでもミンク様の香りを体内に取り込めるようにとする大きく呼吸する。


「適当に座って下さい」


吐き捨てるように言ったミンク様はやはりギアステーションで働いていた時とは大きく様子が違いました。わたくしはこの姿のミンク様に恋い焦がれているのでございます。

ソファーにどさりと腰を下ろしてしなやかな足を組むミンク様。スカートから伸びる足は白く傷一つ付いてはおらず、綺麗なラインを描いておりました。そんなミンク様の足に釘付けになりながらも向かい側のカーペットの上に腰を下ろす。


「貴男を呼んだのは頼みたいことがあるからなんですけど」

「その内容は?」

「簡単です、私と付き合って下さい」


足を組み直して見下げるように笑みを浮かべる。


「貴男私の事好きでしょう」


わたくしの心を見透かしたように紡がれた言葉は疑問系ではなかった。確信を得たものなのでしょう。


「私の事、っていうのはちょっと違いますね。私のこの威圧的な態度とか行為が好きと言った方が合ってます」


にっこりと笑うミンク様にわたくしは言い返せませんでした。確かにわたくしはミンク様の強引さ、丁寧な口調であるにも関わらずわたくしの上に立つかのような高圧的な態度に惹かれたのです。しかし、わたくしのこの気持ちが生まれた理由は本当にそれだけなのでしょうか?


「異存はないと思いますけど、どうですか?」

「何故わたくしと付き合いたいなどと言うのです?」

「理由はしつこい男がいましてね、最近その人がストーカーになってしまって」

「だからその男が何かしでかす前の予防線ということでわたくしが選ばれたのですね」

「理解が早くて助かります」

「ならわたくしからも条件がございます」






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