あの濃厚な口付けを交わした夜から仕事中も気付いたらミンク様を目で追うようになっていました。
ミンク様もそれに気が付いているようで時折わたくしと目を合わせて下さります。その度に顔は火照り、周りに気付かれないようにと帽子の鍔を下げる日々。

ですが発見がありました。
仕事をなさっている時のミンク様は白衣の天使という言葉がしっくりくる程の優しげな声と笑みを浮かべるという事です。わたくしに向けた厭らしさは一切ありません。あの艶やかな笑顔をわたくしだけに向けてくれたと思うと胸が熱くなります。
しかし、実際わたくしにだけ向けてくれているのかどうかはわかりません。所詮はそうであってほしいというわたくしの願望でしかないのです。

溜め息をひとつ。

あれからわたくしはミンク様と話してはいません。否、何を話していいのかわからないのです。ミンク様もわたくしに話し掛けては下さりませんので、こうして遠くから見つめては溜め息を吐く事しか出来ないのです。



「最近のノボリ変」


スーパーマルチトレインでクダリと待機していたら突然言われた。


「…何故そう思うのですか?」


最近わたくしが変だと言う事は自身でも理解しております。何故変になっているかという事も。


「だってミンクのことちらちら見て、溜め息ばっか吐いてる」


クダリに気付かれているくらいですから周りの方々も疾うに気付いているのでしょうね。


「ノボリはミンクの事好きなの?」

「……」

「ぼくはノボリを応援するよ、でも大変かもね」

「どういう事ですか?」

「最近男のお客さん増えたでしょ」

「ええ」

「あれ、全員ミンク狙いで来てるんだよ」


普通ならばこれを聞いて危機感やら何やらを感じるのでしょうが、わたくしは生憎そういった感情を抱きはしませんでした。寧ろ優越感を感じたのです。


「そう、ですか」

「うん」


あの夜の姿を知るのはわたくししかいないのですから。







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