私は久しぶりに波導を使った。 「おおっ!」 ドリュウズは怯み、男は歓声を上げた。 手足が使えなくても、目や口や耳を塞いでもこの能力だけは使える。 「やはりこの能力は素晴らしい」 「それはどうも」 きっと今私は目が青くなっているだろう。 いつだったかノボリは私の目の色を褒めてくれたことがあった。今では懐かしい。 この目を見たらなんて言うだろう。気持ち悪いと逃げていくかな。 ……それともまた褒めてくれるかな。 「来ないのでしたらこちらから行きますよ、ミスター」 ふわりと浮く室内の物。 鏡、椅子、空の花瓶、香水の瓶。 「壊しちゃってもいいのか?」 ――お前の物だろう。 「ええ、いいんですよ」 ――私のものなんですから。 真っ直ぐに男に向かって宙に浮いたそれら飛ばす。 そう。 この部屋は昔、私の部屋だった。 ガシャン 男にぶつかる寸でのところでドリュウズにガードされ、舌打ちをひとつ。 割れたガラスが床に散乱。 香水は床にぶちまけられ、濃い香りを放った。 久しく嗅いでなかったこの匂い。久しく使っていなかった波導の力。 それらは結局私は過去から逃れられないんだと告げているような気がした。 とうざん ← |