「起きたか」

「どうも」

「ここでの目覚めはどうだ」

「……最悪ですよ。ましてや縛るなんて」

「そうだな、縛るのは君の特権だ」


人を馬鹿にしたような大笑い。それは私の琴線をよく刺激した。


「何故今更私を連れ戻そうとしたんです」

「それは君が我らには必要な人材だからだよ」

「新入社員を躾けるのに?」

「よくわかっているじゃないか。それに今じゃあなんだ、ポケモンやら人間やらの手当てをして。あんな笑顔まで貼り付けて」


ふと頭に過ぎるギアステーションの皆。こんなぎこちない笑顔でも褒めてくれた人たちがいた。休みには一緒にどっかに出かけようと言ってくれる人すらいた。それは確かにこの性格を演じているからかもしれない。けれどそれでも昔では考えられないようなくらいの人が私の周りにはいた。

幸せ、だった。


「口が過ぎますよ、ミスター」

「おや、気に障ったか。そりゃあ申し訳ない」

「…………私はあの頃には戻りませんよ」


絶対に。

今のこの居場所を手放したくない。


「……それが答えか」


目の前の男は残念だと言って自分のボールを取り出して投げた。


「ドリュウズ」


はがねの爪がぎらりと光る。


「力でねじ伏せろ」


なんて卑怯な奴だろうか。
今の私はポケモン達を取り上げられてしまっていて丸腰なのに。


いや、丸腰ってわけじゃあないか。


ある考えに思い当たって嘲笑。
そうだ。私にはこれがあるじゃないか。

そして目を閉じる。







――目蓋を閉じれば、あの日、利害の一致を交わした彼がいた。








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