重たい目蓋を持ち上げれば薄暗い室内。頬には硬いコンクリの床の感覚。これだけで私はここがどこであるかすぐにわかり涙が出そうになった。
暫くそのまま周りの様子を伺ってみるけれど物音ひとつしないので、自分以外には誰もいないんじゃないのかと淡い期待。
なるべく身動きをしないように努めながら状況把握してみるが、本当に誰もここにはいないようで少し安堵する。
上体を起こして見ると酷い頭痛に見舞われ、ぐらりと視界が傾いたが何とか手を突いてやり過ごす。


「ははっ、何、これ」


無様に床につく手が視界に入り笑いが漏れる。
両手首は縛られ、見れば両足首、太腿にまでもロープが巻かれていた。


「あの男は私と何を間違ってるんでしょうね」












わたくしは当てもなく走りました。
走って、走って、走りました。

コートすらも重く、邪魔です。

たまたま休憩か何かで外にいた部下にコートと帽子を押し付けた。こんな寒さじゃ風邪を引くとか何とか言われましたが聞こえていない振りをして再び失踪。

冬なのにこんなに汗だくで走るわたくしなんて誰が予想したでしょう。

仕事を放って私情に走るわたくしを誰が予想したでしょう。


まったく、いい笑いものです。




それでも。

それでもいいのです。





「ミンクっ」





今はただ、

あなたへの愛おしさだけがわたくしを走らせる。









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