走って、走って、走って。
今までで一番ではないかと錯覚するくらいの疾走。

ミンク様を探して駅構内を駆けるわたくしの姿に職員が驚いていましたが関係ありません。

その時ギアステーションに勤務の職員からミンク様がギアステーションを出て行ったと聞き口早に礼を言いわたくしも外に出ていこうとすると腕を掴まれる。

こんな時に何だと思わず舌打ちをしたくなる。


「ノボリ」


振り向けばそこにはクダリ。表情は硬く真剣でいつもの人懐っこい笑い顔はそこにはなかった。


「仕事中だよ」


掴まれた腕は強い力で握られている。


「わかっています」


こんなことしている場合ではないです。今この瞬間ミンク様がどうなってしまうのか気が気ではない。わたくしも余裕がなく普段よりも強い口調になってしまう。


「わかってないよ」

「いいえ、わかっています。ですからこの手を離して下さいまし」


無理やりにでも振りほどこうと腕を振り払って走り出そうとするわたくし。刹那、頬に衝撃。目の前には拳を作っているクダリがいて、自分が殴られたということを理解。


「ノボリ、冷静になって」


突然の事に思考回路は容量オーバーで停止寸前。


「ぼく達、サブウェイマスター。ここのボスが仕事を放り出してナースを追いかけるなんて下に示しが付かない。ちゃんと考えて」


わたくしの胸倉を掴むクダリの声は低く、目には鋭い光が宿っていた。
しかしわたくしも引くわけにはいかないのでございます。


「確かにわたくし達はサブウェイマスター。しかしそれ以前にわたくし、男なのでございます。お慕い申している女性を守ることすら許されない職でしたら、辞めてもかまいません」


しっかりとクダリの目を見て素直に気持ちをストレートにぶつける。すると数秒して笑った。


「ノボリがここまで言うなんて初めて。わかった、ここはぼくがなんとかするから早くミンク連れ戻してきて」


その代わり、とクダリは付け加えます。


「一人じゃ帰ってこないでね」


わかっております。

本当に ありがとう。






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