あれから月日は経過した。
未だにノボリさんには私の過去については黙秘を貫いているし、ノボリさんも自分から聞いてこようとはしなかった。
それに私とノボリさんが恋人関係にあることの認知度も上がっている。

何もかもが順調に進んでいた。
そんな矢先。


「ミンクさん、向こうに重傷のポケモンが!」


ハニーブラウンの髪を揺らす可愛らしい女の子が血相を変えて走ってきた。
重傷のポケモンと聞いて慌てて私も救急箱やら治療道具を引っ掴み、女の子に案内されながら走り出した。





連れて来られたのはギアステーションを抜けた人気のないビルの間。
そこには重傷のポケモンがいなかったが、代わりに女の子達が沢山いて私を睨み付けていた。

はめられた。

面倒な事になったと思わず溜め息を吐きたくなる。


「あんたさぁ」


睫毛がばさばさした女の子が一歩に出て偉そうに話し始めた。
何を言いたいのかは大体予想がつく。ノボリさんに近付くなーとかそんなことでしょう、どうせ。


「ノボリさんに付き纏うのやめたらぁ?」


予想的中。

間延びした声が鬱陶しくてたまらない。
ルカリオのドラゴンクローで今すぐにでもこの女ズタズタにしてやりたい。こっちは本当に手負いのポケモン心配して全力疾走してきたっていうのに。

騙されたこととこの状況に腹をが立てていると、女の喋り方が苛立ちに拍車をかける。

きゃははという女の子達の高い笑い声が耳障りで仕方ない。


「エモンガちゃん、その女のことやっちゃってぇ!」


聞き流している間に気付けば目の前の女の子達は自分のポケモンをボールから出していて、さっきまでベラベラと喋っていた女がエモンガを従えて私を指差した。

エモンガがぱちぱちと音を鳴らし、帯電したかと思うと10万ボルトを私に向けて放った。
しかし電撃が私に届く前に私の視界は赤い光に包まれ、大好きなあの声が聞こえた。


“主!”


焦ったような声色。
次の瞬間、閃光が走る。

私は頭が真っ白になった。


絶望感。

力を失い、がくりと膝が地面についた。

目の前には地面に突っ伏すルカリオ。


「なにこのポケモン、私の邪魔しちゃってむかつくー」

エモンガを従えた女が私の大切なルカリオを汚いものを見るかのような目で見下した。



私はそれが赦せなかった。



怒りやら絶望やらから生まれた私の劫火が理性というストッパーをじりじりと焼いた。


「ゆるさない」

「はあ?」


ゆらりと立ち上がり、もう一つのボールに手をかける。
目の前の女や他の女の子も訝しむような視線を私に投げかけていたが、私は彼女達の愚さに思い笑いさえ込み上げてきた。


「ジュゴン、」


だって彼女達は知らないのだ。


「絶対零度」


私のルカリオを傷付けたことがどれだけの罪かを。







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