「ノボリさん、ちゃんと待っていましたか?」


暫く己の煩悩と葛藤していると風呂から上がったミンク様がリビングに戻ってきました。彼女の肌はまだ火照っているのか薄紅色に染まっていてとても扇情的でございます。


「はい」


冷静を装い気丈に振る舞ってみたものの、ミンク様にはきっとバレていることでしょうし、わたくしの虚勢などミンク様にとっては子猫のようなものなのでしょう。


「こっち来て下さい」


にやりとニヒルに微笑むミンク様の色気にあてられて、自分の顔に熱が集まるのを感じた。呆気なく先ほどの振る舞いが無に還っていく。


「さあ早く」


先程よりも些か強い口調に促され、ミンク様の元へと歩み寄る。


「クダリさんは知っているんですか?」


跪くわたくしを見下しながらミンク様は言いました。


「何を、でしょうか」

「貴男のこの性癖についてです、よ!」


そしてミンク様は丁度わたくしの鳩尾の辺りに蹴りを入れたのです。
あまりの苦しさに噎せているわたくしを構わず今度は脇腹を蹴り込む。その衝撃で転がったわたくしを至極嬉しそうに見つめ、腰を折って屈むとそっとわたくし頬に手をやり、撫ぜた。


「貴男のことですからきっと言っていないんでしょうけど」


それから頬から髪へと手を滑らせにっこりと笑うミンク様に見惚れる。
先程の哀愁感は一切消え、いつものミンク様の調子に戻ったようで内心ほっと致しました。


「まあ、言えないですよね?殴ったり蹴られたり辱められたりするのが好きだなんて」


急に撫でていた手がわたくしの髪を鷲掴み、引っ張りました。引きつるような痛みに思わず眉をしかめ目を瞑ると、目許に柔らかいもの。驚いて咄嗟に目を開くとミンク様のお顔が間近にあり、先程の柔らかいものがキスだった事を知りました。
それからミンク様はわたくしの髪を後ろに引き、上を向かせると喉笛をべろりとひと嘗め。ぞわりとする感覚がわたくしを襲ったかと思うと喉元に鋭い痛みが走った。


「ぅあっ…いた、い…痛い、です」


ここまで痛いのですからきっと血が出ているに違いありません。
痛みに涙さえ出てきました。
じわりと滲む視界。


「ノボリさんのその表情、私堪らなく好きなんです」


わたくしの顔を確認するミンク様の口の端には案の定紅がありました。
再びミンク様が喉元に顔を埋めたかと思うとペロペロと舌を這わせた。そこに舌が這う度ぴりぴりとした痛みがわたくしに与えられ、目尻からぽろりと涙が零れ落ちた。







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