ミンク様のご自宅にお邪魔させて頂くのは二度目でしたが緊張するのは相変わらずでございます。
リビングに入りに着ていたコートを脱ぎ、適当な椅子に引っ掛けさせて頂くとミンク様は自室に引っ込み姿を消しました。大方ミンク様もコートを脱ぎハンガーに掛けてクローゼットに仕舞う為に行かれたのでしょう。

以前訪れた時は部屋の様子を見るほどの余裕が無かった為気付かなかったのですが、寂しい部屋でございます。必要最低限の物しかない部屋というわけではなく、一応家具を置いているというような形だけの部屋。まるで原寸大の箱庭のようだという印象を持ちました。
ダイニングテーブルの上にちょこんと乗っている写真立て。近付き手に取ってみるとそこには幼いミンク様とリオルが写っておりました。ぎゅっと大切そうにリオルを後ろから抱き込む形で写っているミンク様は幸せそうでした。


「ノボリさん」


後ろから掛けられた声にどきりとして振り返る。


「その写真……」

「勝手に見てしまいすみません、気を悪くしたなら謝ります」

「いえ、平気です」


わたくしの手から写真を取り去り、テーブルの上に伏せて置くミンク様の顔が僅かに陰る。平気だなんて、それは嘘でございます。でなければあんな悲しそうな目をするわけがありません。しかしながら、それを指摘すればきっとミンク様は今よりも更に暗い表情になるのでしょう。わたくしはミンク様のそのような表情を拝見したいわけではないのです。


「ノボリさん」

「何でしょうか」


いつの間にか床を眺めていた自身の視線を上げ、ミンク様の瞳をじっと見る。


「マッサージ、得意ですか?」


にっこり笑うミンク様はいつもの作り笑顔とも違う、困ったような笑顔をわたくしに向けました。






ミンク様にソファーの上に座って頂き、その後ろから肩を指圧してマッサージをする。
以前から簡単に折れてしまいそうな四肢だとは思っておりましたが、実際に触れてみるとガラス細工のようでした。繊細で儚い──華奢という言葉がとてもよく似合うのでございます。


「もっと力入れて」

「も、申し訳ございません」


折れてしまいそうで恐いので弱い力で揉んでいたのですがミンク様は気に食わなかったようで、少し強めの口調で指示されてしまいました。先程よりもやや強く指圧すると、気持ち良いと呟やいていましたのでこのくらいで丁度良いようです。

手元に集中しようとしても先程のミンク様の様子が気になってしまい集中力が散漫になりがちです。
あの写真には一体どういう思いが込められているのでしょうか。何もないわけがないのです。それにその話題を避けたがっているのは丸わかりでございました。普段でしたらもっと上手く交わすなり、流すなりする筈なのです。

……本当に一体あの写真は何なのでしょうか。過去に何があったのでしょうか。







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