「今日ボス何かあるんですか」


駅員室でコーヒーを飲んで一息ついていると職員にそう声を掛けられました。


「何故ですか?」


中身がまだ入っているコップをテーブルの上に置いて向き合う。


「いつもと比べて嬉しそうですし、時間を気にしているようでしたので」


顔や行動に出てしまっていましたか。もうクダリにとやかく言える立場ではないですね。すみませんと謝れば目の前の職員は焦ったように弁解した。そんなフォローはいりません。本当のことですから。


「ご指摘有り難うございました、以後気を付けます」


そこでまた時計を見やる。ああ、もうこんな時間ですか。残っているコーヒーをシンクの中に流し、ざっと洗う。それではお先に失礼いたします、と告げて駅員室を後にすればお疲れさまですと言う声がわたくしを追いかけた。


ギアステーションを出ればそこにはミンク様が既にいらっしゃいました。いつものナース服とは違いシックな装いでとても似合っております。


「お待たせいたしました」

「それじゃあ行きましょうか」


するとミンク様はわたくしに手を差し伸べていました。これは手を繋いでも良いのでしょうか。ミンク様に縋るような目線を向ければわたくしに手はミンク様の手に絡め取られました。指まで絡み合っているこれは所謂恋人繋ぎ、というものでしょうか。嬉しい。繋がれている手にぎゅっと力を入れればミンク様に握り返される。それだけで幸せを感じてしまいます。
ミンク様のマンションを目指し歩いている際、冷たい風がわたくしの露わになっている耳を叩いていきます。じんじんと痛む耳にそっと触れて熱を何とか与えようとしてみましたが大した効果は得られず手を下ろした。

マンションに着き、ミンク様は鞄から鍵を取りだしエントランスの鍵穴に差し込み扉を開けた。それからエレベーターに乗り込むと痛いほどの沈黙がエレベーター内を包みます。


「ノボリさん」

「なんでしょうか」


その沈黙を破ったミンク様は事も無げに言いました。


「ストーカー、いましたね」

「えっ」


全く気が付きませんでした。


「私達の後、つけていましたよ。気が付きませんでしたか?」


躊躇った後素直に、はいと小さく返事をすれば意外と淡泊に、そうですかと返された。わたくしはてっきり怒られるなり捨てられるなりすると思っていたので驚いてミンク様を見ると、さして気にしている様子無く真っ直ぐ前を見つめていました。





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